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刻の意外な一面 3
そして、刻との関係を認めてもらえたことが、何より嬉しかった。
刻の手が、壮吾の背中に当てられた。その眼差しが優しすぎて(まだ慣れないけど)胸の奥がじんわり温かくなる。その確かな温もりに安堵した。
壮吾は、目頭が熱くなり鼻の奥がツンとして、それを誤魔化すために池に視線を戻した。
水が澄み、日の光がキラキラ反射している。水面は穏やかで、その中に漂う鯉達は、まるで色とりどりの宝石のようだ。
その美しさに惹かれ見つめていると、見たこともないような美しい人と、水面越しに目が合った。
「わっ!」
思わず一歩後方へ飛び退き、刻にしがみついた。
「どうした、春井くん」
「い、いいいまっ、池の中に凄い美人がいて、そんで俺を見てて! てゆーか、目が合った!」
まだ心臓がドキドキしている。
――いや、待てよ。さっきの美人、千代ちゃんに似てたな……
壮吾が千代の姿を見たのは二回。
古びた写真と、リビングで刀禰に話しかけている千代の姿だ。但し、その姿は薄く消えかかっている状態だったし、写真に至ってはセピア色だった。
壮吾は、肉眼ではっきりと千代の姿を見ていないのだ。
「水面に千代ちゃんが映ったのかな、あるいは……この池に住む美人な妖怪とか?」
「いや、どちらも違う。その美人は君自身だよ、壮吾くん」
刀禰が言った。
「――え?」
――もしかして冗談? この場合、どう返すのが正解なんだろう?
刀禰と初めての対面が叶い、この数時間で人となりがなんとなく理解できた気がしていた。
刻に対しては軽口を交わしていたし、なんというか刀禰は、お茶目な面も持ち合わせているようだった。
だから、冗談を言ったとしても不思議ではないと思える。
内心オロオロしている壮吾に、刻が助け舟を出してくれた。
「春井くん、もう一度見てごらん」
「えっ」
「大丈夫、僕と一緒に覗いてみよう」
刻が背中に腕を回して、がっちりホールドしてくれる。
優しい言葉と態度に、また胸がきゅんとした。
「うん、わかった」
刻と一緒なら心強いことこの上ない。壮吾は、恐る恐る身体を乗り出し、水面を覗いた。
先に見えたのは刻の顔だった。そして、その隣に……。
「ほらいるじゃん! そこ! おまえの隣に凄い美人が!」
思わず刻にしがみついて目を瞑る。と、刻はまだ覗いているようだった。
「春井くん、僕には、君と僕しか見えないよ」
刻は涼しい顔で言った。
「何言ってんだよ、ほらそこ!」
もう一度覗くと、あろうことか、その美人は刻にしがみついていた。そして、壮吾を真っ直ぐ見つめて、――怯えた目を……している?
――ん?
壮吾は刻にしがみついた手を離したり掴んだりしてみた。そして水面に向かって手を振ってみる。
相手も壮吾の動きをそっくりそのまま真似をした。
次に、大きな動きで手をグルグル回してみた。相手も同じ動きをした。
それはまるっきり鏡のようで――。
そう、謎の美人の動きは壮吾とまったく同じなのだ。
「そうか、わかったぞ」
「春井くん、理解できたのかい」
壮吾はドヤ顔で答えた。
「ああ。この池は、どんなブスでも美人に見えちまう不思議な池なんだな!」
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