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刻の意外な一面 4

 自信満々で言ったのに、しん、となってしまった。    別にウケを狙ったわけではないが、刻は微妙な顔をしているし、背後に控える島ノ江は、表情を保ちつつ肩を震わせている。乗治朗はニコニコしている。 「はっはっはっは、そう来たか!」  突如、刀禰が黄門様みたいに笑い出した。 「へっ?」 「壮吾くん、君は本当に面白い子だね」 「えっと……あの」  何故笑われたのかがわからなくて、壮吾は刻の顔を見上げた。皆が笑顔の中、刻だけは額に手を当ててため息をついている。 「……久須美?」 「ああ、違うんだ。僕は自分自身を軽蔑しているんだよ」 「えっ、なんでだよ」  壮吾の言った言葉と、刻が自らを軽蔑することがどう繫がるのかわからなくて、壮吾は刻の手を握った。  すぐに握り返されるが、恋人の表情はちっとも晴れない。  そんな二人の様子を見かねたのか、刀禰が言った。 「話し合いが必要だね、刻」 「はい」 「なに、君も壮吾くんも若い。これから時間はたっぷりあるのだから、そう思い悩むことはないよ。――そんな状態の君は人間くさくて好感が持てるがね」 「刀禰様……」  恨みがましい目つきで、刻は刀禰を見た。 「ははは。壮吾くん」 「あ、はい!」  刀禰は肩をすくめた。 「常にポーカーフェイスの曾孫の、レアケースを見られるのは君のおかげだ」 「は、はい……」 ◇  昼食後、帰る前に刻と二人、刀禰邸の庭をブラブラ散歩した。  池泉回遊式庭園を回り、枯山水を堪能した。  他人の目がないのをいいことに、壮吾は積極的に刻と手を繋いだり、腕を組んだりした。  はしゃいでしまったが、壮吾は、落ち込んでいる刻に元気を出してほしかったのだ。    時折、刻は遠くを見つめた後、壮吾をじっと見つめて柔らかく微笑む。その慈愛に満ちた瞳に、壮吾の胸もじんわり熱くなった。 ◇ 「なあ、少しは元気になったか?」 「――えっ? ……ああ、うん。心配かけたね」  広い円形の浴槽に二人で浸かり、向かい合わせに座っている。  この屋敷の五階に(外観からは見えないが)刻と壮吾の部屋があり、そのインテリアはシンプルなデザインだ。    しかし、浴室は久須美邸の外観とマッチした豪奢なデザインで、壮吾は毎日入るたび「女子が大喜びしそうだよな」と思う。  白とベージュ、ゴールドを基調にし、角張った部分を極力減らした丸みを帯びたデザインが女性的だ。  ――そこに、男二人で浸かっているわけだが……  壮吾がじっと見つめると、何故が刻は、気まずそうに視線を逸らした。  さり気ないのを装っているが、不自然なのはバレバレだ。  久須美邸に戻り、久須美家の家臣達に挨拶した。(若梅がいつにも増してニコニコ顔だったのは明らかに目立っていたが)  一緒に夕食を摂ったところまでは、普段通りの刻だった。  多少元気がないものの、壮吾が見つめれば、穏やかな表情で微笑んでくれた。  それが、部屋に帰るためにエレベーターに乗り込んでから、刻の様子はおかしくなった。  特に、「二人きりになってから」刻の様子が変だ。  ――まあ、原因は俺なんだろうけど……  刀禰も言っていたように、刻は壮吾のこととなると、冷静さを失うらしい。  

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