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刻の意外な一面 8

 壮吾の唾液で充分に潤っていた刻の熱い切っ先は、壮吾の秘腔へずぶりと差し込まれた。 「は、あっ、」  反射的に反らした壮吾の腰を、刻はがっしりと捕らえる。 「ああっ」  そのまま、最奥まで貫かれた。 「アーーーーッ!」 「くっ…」  奥に留まった刻は無言で、荒い息を繰り返した。  受け入れる準備はしたものの、この瞬間だけはいつも驚いてしまう。よい意味で、予想を上回る違和感と愉悦を毎回壮吾に与えるからだ。何度抱かれても、この衝撃は変わることがないのかもしれない。 「はあ……あ、はあ」 「まったく…君という人は」  まだじっと動かぬまま、刻は背後から壮吾の首筋に口づけを落とした。 「あ、や……」  刻は動かないが、壮吾の中は切なげに蠢いている。熱くて、焦れったくて、このままでいたいのに、何かが来そうで来ないのが、もどかしくてたまらない。 「いや、だぁ」 「春井くん」 「うご、けよ……」  膝から力が抜け落ちそうだった。  どこに力を入れていいのかわからない。 「や、だ、くすみぃ…」 「――仰せのままに」  刻がずず、と後退する。あ、と声を発する間もなくずん、と戻ってくる。 「ああっっ」  強烈な快感に、壮吾は仰け反った。    右肩に刻の濡れた柔らかい髪を感じる。    背後から深く激しく犯されているのに、肩に口づける刻の仕草は優しい。 「は、ああ、あ、ん、あっ」  浴室に自分のあられもない声が響くのも構わず、壮吾は喘いだ。    とうに恥ずかしさなどは霧散していた。  ただ、刻が与える熱を感じていたかった。 「あっ、くす、み……」 「はる、い、くん、好きだ――愛してる」 「おれ、も……おまえ、が」  壮吾も喘ぐ合間に、愛してる、と吐息で応えた。  劣情で穿たれ、激しく揺さぶられながら、壮吾は絶頂を迎える。 「くっ……」  ほぼ同時に、腹の奥深い場所で、刻の熱が弾けた。 「……!!」  壮吾は、声にならない悲鳴をあげ、ぐったりと浴槽に倒れこむ。刻が支えてくれたおかげで痛い思いはせずに済んだが、睦みあうのが久しぶりだったことが堪えた。      不安定な状態での慣れない体位、加えて長く湯に浸かりのぼせ気味だった。  強烈な快感で頭は働かず身体はフラフラ。刻から口移しで水を与えられたのはぼんやり覚えているが、その後はしばらく夢現の状態だった。  壮吾は無意識に手を伸ばし、愛しい存在を捜した。 「久須美……?」 「春井くん、ここにいるよ」  見上げると、刻が壮吾の顔をのぞきこんでいた。ほっとして口元が緩む。壮吾の身体はベッドまで運ばれたらしい。シーツの肌触りが気持ち良かった。 「俺、寝てた……?」 「一時間ほどかな。気分はどう? 吐き気はあるかい」 「ん……ない。けど、水飲みたい」 「待って」  ベッドサイドに置かれた飲料水入りのポットを持ち上げ、刻はグラスに水え注いだ。 「身体、起こせるかい」 「ん」  腹筋に力を入れると、後ろまで響いたが、顔をしかめるほどではなかった。刻の手を借りながら、なんとか身体を起こした。  水のグラスを手渡すだけではなく、刻はグラスを壮吾の口元へ運んだ。過保護な気もするが、壮吾は甘えることにする。  幼少期から帝王学を学び、何十人もの使用人を自分の手足として使うこの男が、意外にも壮吾に対してだけは、世話好きな一面を発揮することを知っているからだ。

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