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第1章 お客様に夜の楽しみを提供するお仕事⑧
「大丈夫そうですか」
はな六は頷いた。
「それじゃ、セックスを始めましょう。まずはキスしても良いですか?」
「キスとは?」
「唇と唇を重ねます」
サイトウに無理矢理された事だ。あれは嫌だった、と少し怖じ気づいたはな六に、マサユキは続けて言った。
「親しい人同士で、親愛のしるしにするものです。しても良いですか?」
はな六は少し考えてから言った。
「店長なら平気です」
「マサユキと呼んでください」
「じゃあ……マサユキになら、キスしてもらいたいです」
「ありがとう。では……」
「んっ」
マサユキの分厚い唇が軽くはな六の唇に触れた時、はな六は首筋に甘い痺れを感じた。お飾りから更に蜜が溢れ出て、細い茎を伝い落ちていく。はな六は腰を浮かせ、マサユキの口付けを無我夢中で受けた。
抱き締め合い、そしてゆっくりと布団に押し倒される。はな六は夢見心地で身体を許した。
人間がわざわざ金を払ってまでしたがるだけあって、セックスとは想像を絶する快楽だった。色々な体位を試し、フィニッシュにはマサユキの言うところの“わんわんスタイル”で後ろから沢山突いてもらった。はな六はぐらりとつんのめり、尻は上げたまま上半身だけ布団にぐったりとうつ伏した。ゴムに覆われたマサユキの逸物がはな六の中から抜かれると、後孔から体液がどっと溢れ、太腿や腹を伝い落ちた。
「痛くはないですか?」
マサユキは蒸しタオルを使って、粘液でべとべとになったはな六の尻を拭ってくれた。痛くなくはないが、はな六は「大丈夫です」と答えた。痛いと答えて、可哀想だからやっぱり不採用、とされてはたまらない。それに、痛いのは挿入された直後だけで、しばらく内部を擦られ続ければ、やがて我を忘れるほどの快感がやってくるのだ。
マサユキの手によってはな六の身体は丁寧に横たえられた。マサユキもはな六の横に添うように横になり、彼の腕の付け根に頭を載せるよう、はな六に促した。
「どうです、セックスは気に入りましたか?」
マサユキははな六の頭を撫でながら言った。
「はい、とっても」
はな六は答え、少し顔を上げた。マサユキからチュッと額に口付けられると、うなじがじんわりと痺れ、頬がぽかぽかと熱くなった。
「僕も六花ちゃんとのセックス、とっても気持ち良かったですよ。今、とっても幸せな気分です」
「んーっ」
はな六は自分の鼻先をマサユキの潰れっ鼻にスリスリと擦りつけた。
(思ったよりもおれにはこの仕事の才能があるし、案外この仕事は貴い。人を幸せにして、しかもお金をいただけるなんて、いいことずくめではないか)
翌日、はな六はマサユキとユユの二人から“お客様に夜の楽しみを提供するお仕事”のいろはを仕込まれた。マサユキからは、
「エチエチに関しては六花ちゃんはもう免許皆伝ですね」
とまで言われた。免許皆伝! 何といい響きだろう。囲碁を二十年やってもそんな境地にはたどり着けなかったのに、セックスではたった一晩で成し遂げてしまった。
その夜にははな六は初仕事に出され、四人の客の相手をした。手応えは充分。マサユキが言うには、六花指名希望の電話が相次いで、電話の鳴りやむことがなかったという。
ドアの前に立つとき、自分は今から恋人に会うのだと自分自身に暗示をかけるべし、と教わった。恋人というのが、はな六にはよく分からなかった。全くわからないという訳ではないが、はな六が知っている“恋人同士”という間柄はあまりにも殺伐としていて、互いに礼儀を欠く印象があったので、お客様に相対する姿勢には相応しくないと思った。そうユユに話すと、ユユは、
「じゃあはな六ちゃんの場合、店長と会うときのことを想像すればいいんだよ」
と、アドバイスをくれたが、それは大層役に立った。
インターホンを押してしばらく待つ。ドアが開いたとき、客は皆、六花ことはな六を見るなり歓喜のため息を漏らした。
「可愛い! 思ってた以上に可愛いね!」
その一言だけではな六の心は満ち足り、気分よくプレイに入ることができた。客の言葉がお世辞ではないことは、一緒にシャワーを浴びる際に客の身体が証明した。どの客も服を脱ぐ前から、脚の間の一物を欲情でパンパンに腫らしていたのだ。
マサユキとユユの教えを忠実に守り、はな六は客にサービスをした。怖いことなど何もなかった。なぜなら全ての客ははな六にベタ惚れで可愛がってくれたし、よく言うことを聞いてくれたからだ。はな六はシャワールームの床に跪いて、既に皮がずる剥けになった客の一物に、泡立てた消毒ソープを塗りたくった。
客と共に寝室になだれ込んだら、それとなく室内を見回して危ない物がないかチェックする。どうやら大丈夫そうだが……。
(うっわぁー……)
壁一面、天井さえ、沢山の写真やポスターが覆い尽くしていた。どれも被写体はただ一人の若い女の子だ。圧巻の光景に、はな六は思わず素に戻ってしまうところだった。
「さぁ、レオちん、おいで。ボクと気持ちのいいことしよ?」
客に手招きされて、はな六は我に返った。ドン引きしている場合じゃない! 笑顔、笑顔。
でも、よりによって、アイツの身代わり役だなんて。はな六は笑顔を絶やさずにしながらも、内心辟易せずにはいられない。この客、張麗凰 の熱烈なファンなのだ。張麗凰は台湾生まれのプロの囲碁棋士であり、世界ランキング第一位であるために“囲碁女帝”と渾名されていて、ジャパンではもっぱら英名のレジーナ・チャンか“ちょう・れお”と和風の読みで通っている。“レオちん”という愛称は、ジャパンのアイドルオタクの間でよく使われる。
はな六自身、このボディの第一印象は“張麗凰に似てる”だったのだし、彼の背に揺れているポニーテールをユユに結ってもらったとき、ユユも「はな六ちゃんってレジーナに似てるよね」と言ったくらいだ。
やや、いけないいけない! 余分なことを考えている場合ではない。油断していれば後手を引かされる。“お客様に夜の楽しみを提供するお仕事”も、常に先手先手で進めるべしという一点に関しては碁と同じだ。
気を取り直して、はな六は仰向けで待ち受けている客の太鼓腹に乗り、顔に降りかかる後ろ髪を手で払い退けて、客の唇をチュッと吸った。身体の節々が痛むのを我慢し、巧みに身体をくねらせて客を愛撫しつつ、濃厚な口付けを与えた。
「はぁ、レオちん、ボクのレオちぃん」
(そう言われても、アイツの物真似までするのはなぁ)
第一、はな六にはあの張麗凰が男に媚びるところなど、到底想像がつかなかった。なにしろ彼女は自身の恋人にすら微塵も媚びはしない女だからだ。想像出来ないのだから、客の期待には応えず、ただ黙々とプレイをするのが吉というもの。ディープキスを切り上げると、唇を首筋から鎖骨へ、更に下へと這わせていった。その間に客の手に手を重ねて握ると、客もギュッと握り返してきた。好感触だ。
足の指の股まで舐め尽くし、縮れ毛に覆われた脚をつけ根まで遡って、いよいよ脚の間の茂みから聳え立つ一物に舌を這わせる。結構な太さのこれを体内に納めるときを想像すると、自然と口内に唾液が溢れた。
「んっ、んー」
はな六のお飾りも先端から液をたらたらと垂らし、後孔が期待にひくひくと痙攣した。硬く張りつめた肉の棒をコンドームで覆い、たっぷりと唾液で濡らし、いざお腹の中でサービスしようと、男の腰に跨がったときだった。ふと、壁に一枚だけ男性が被写体の写真があるのが、目に留まった。写真は何かの雑誌の切り抜きらしきもので、青年の端整な顔の真ん中に深々と刺さるナイフによって、壁に貼りつけられていた。
ジュンソだ。韓国人棋士でやはりアイドルでもあるハン・ジュンソ。張麗凰の幼馴染にして公認の恋人。アイドルというものは大抵、恋人の存在をファンには隠すものだが、張麗凰はそんな自重などせずに私生活を開けっぴろげにしていた。圧倒的な美貌と実力を兼ねている彼女に意見出来る者など、誰一人として存在しない。
「んあっ、いっ……!」
つい気を取られている間に、下の男ははな六の両手首を掴まえ、いきり立つ一物ではな六を貫いた。そして容赦なく激しい突き上げを食らわせてきた。
「あ、あんっ……、いった! ちょっと待って、焦らないでっ、あぁっ!」
びゅう、とお飾りの先から飛沫が上がり、はな六の顎を濡らした。強い快感に、痛みと同時に背中を支える力までどこかへ行ってしまった。ぐらりと身体が傾いだ。男は鼻息を荒くしてはな六に襲いかかると、たちまちシーツの上にはな六を転がし、両手首をまとめて頭上に押さえつけ、猛攻を開始した。
「わんわっ! やだっ、痛いっ、やめてっ、叩きつけないでぇ!」
はな六は懇願したが、男はより一層興奮して力の限り腰を打ち付け続けた。イニシアチブを取れなかったばかりに体内のヒビの入った部分を執拗に攻められ、わんわん泣く羽目になった。じんじんとした痛みに痺れ、腰の感覚がなくなっていく。だがお飾りからは間欠泉のように精液が吹き上がった。
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