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第2章 はな六の独立宣言⑪

(どうでもいいことはよく覚えているものだなぁ)  はな六はぬるくなった白湯を飲み干し、湯呑みをテーブルに置いた。マサユキはもうすっかり食べ終え、げふっとげっぷをした。 「お白湯のおかわりはいかがですか」  マサユキがすすめてくるので、はな六は湯呑みを差し出した。マサユキは白湯を注ぐと空いた食器を片付け、よっこらせと座り直した。 「ねぇ六花ちゃん。この間の事件に関することをお話ししてもいいですかね」 「はい、どうぞ」  はな六も姿勢を正した。 「君が病院に運ばれたあと、僕とナカヤマ君とで、犯人にお説教しておきました」 「お説教? 警察に突き出したんじゃないんですか?」  はな六はつい腰を浮かせた。マサユキは腕を組んでふぅ、と小さくため息を吐いた。 「残念ながら、この手の事件で警察が真面目に動くことはほとんどないのですよ。なので、僕など“お客様に夜の楽しみを提供するお仕事”の事業者は、自分達で対策を取る訳です。でも、オリジナルの対策法の方が、警察にお任せするよりも格段に効果があるので……。あ、お白湯、遠慮なく飲んでください」  マサユキに促されて、はな六は湯呑みを傾け一口飲んだ。湯呑みを茶托に置くと、マサユキは話しを続けた。 「まあ、そういうことなんで、安心してください。犯人にはよーく言い聞かせておきましたので、もう二度とあんなことはしませんと、お約束してくれました。彼をしかるべきお金貸し屋さんに連れて行って、僕らの目の前でお金を借りてもらいまして、そのお金を賠償金として頂戴してきました。治療費を支払ってもお釣が来るくらいの金額はありますので、当分はお仕事をしなくてもお金の心配をしなくていいはずです」 (なんかおかしな話だな)  ひとを暴行した奴を、警察が捕まえないなどということがあるのだろうか? はな六自身がやらかした際は、通報によってすぐさま飛んできて、クマともタヌキともつかない身長たった六十センチの小柄でぽんぽこりんな身体を数人がかりで取り押さえたではないか。あの時はな六が相手に負わせた傷はほんのかすり傷に過ぎなかった。だからといって良いわけはないのだが、先日の場合、はな六はあの犯人から鼻とお腹のパーツを破壊され、水管が破れて“出水多量”によるヒートアップで体内電熱機が故障した。それでも警察は動かないというのか? なんという理不尽! 「六花ちゃんは心配しなくてよいのですよ。もう犯人はジャパンにはいません。借金返済のために割りの良いお仕事を紹介してあげたので。犯人は遠洋漁船に乗って、今頃は遠くの海でお魚を釣って働いていますよ」 「んー」  よくわからない。親切にしてやったような口振りだが、何だか不穏なストーリーだ。マサユキははな六の目の前にスッと一通の封筒を差し出した。その厚みにはな六はぎょっとした。遠くの海で魚釣りのアルバイトをして稼ぐには、一体何年かかるだろう。 「どうぞ、受け取ってください」  はな六はマサユキを見上げた。マサユキはいつもの仏頂面ではな六を見ていた。 「何も心配することはありません。犯人はサイトウ君にボコられたことも誰にも言わないとお約束してくれました」  サイトウがこの件で逮捕されることはない、ということか。 「でも、それでは先ほどの話と矛盾しています! 警察はこの程度の事件では真面目に動かないと、マサユキはさっき言ったじゃないですか。それとも、犯人がおれを暴行をしたことと、サイトウが犯人を蹴りまくったことでは罪の重さが違うってことですか? もしかして、犯人が人間で、おれがアンドロイ……」  マサユキはシッと人差し指を立てて自分の唇に当てた。 「もう済んだことです。まぁ、そういうことなので……」   「ただいまぁ」 「お帰り。よぉ、遅かったじゃねぇか、はな六ぅ」  帰宅するなりサイトウが腕組みして立ちはだかった。はな六が右に避けようとすれば右に動くし、左に避けようとすれば、左に動き、邪魔してくる。右、左、右、左と、三十秒ほどの攻防戦ののち、はな六はくるりと回れ右をした。 「ちょ、待てよ、どっこ行くんでや!」  慌ててはな六を掴もうとしたサイトウの脇をするりとくぐり抜け、はな六は工場の中によたよたと走ると、靴脱ぎ場で靴をぽいぽいと脱ぎ捨てて這うようにしながら二階へ駆け上がった。ピシャリと寝室のドアを閉め、畳に俯せて、わんわん泣いた。  はな六は仕事をクビになった。何も悪いことなどしていない。むしろ人気ナンバーワンキャストの六花として、店に多大な貢献をしてきたはずだ。なのにたった一度変質者に襲撃されて、その事後処理にマサユキらの手を煩わせただけでクビを切られてしまった。しかもはな六の帰るべきアパートの部屋は、入院している間に勝手に引き払われていた。はな六の帰る場所はサイトウのこの家しかなくなっていたのだ。なんという理不尽!  長い間はな六は泣いていたが、サイトウは追って来ず、更に時は過ぎて、ふと目を開けると日はとっぷり暮れて、いつの間にか室内はすっかり暗くなっていた。階段をサイトウの足音がドスドスと上がり、寝室に近付いて来て、やがてドアが開いた。  身体を強ばらせたはな六のすぐ横を、畳を踏みしめる足が通りすぎていった。部屋が明るくなり、押入の襖が滑り、そしてどさり、と布団が畳に落とされて起きた小さな風が、はな六を撫でた。 「ほら、どいてな」  サイトウが足の爪先ではな六をつつき、部屋の隅に退くよう促した。ばさりばさりと布団がのべられ、重ねられていくのを、はな六は顔を伏せたまま聴いた。布団を敷き終わると、サイトウは手をパンパンと打ち鳴らした。 「寝るんならこっちに寝ろや。そんな寒ぃとこに転がってねぇでよ」  はな六がそれでもじっとしていると、サイトウははな六を抱き上げ、おりゃぁ、と布団の上に転がした。仰向けに転がってしまったので身を守るために丸くなろうとしたが、両手首を捕らわれ、太腿の付け根辺りを膝でしっかり挟まれてしまった。 「何するんだよっ。放せよ、バカサイトウ!」  抵抗むなしく、はな六のズボンと下着は易々と下ろされてしまった。サイトウは作業着を脱ぎ捨ててTシャツとトランクス姿になると既に硬くなっている一物を引き出して、それでそそくさとはな六を刺し貫いた。 「んぅ……さっそくお家賃の請求ですか!」 「ケケッ、違ぇよぉ。俺とお前さんのコレはもう、愛の営みだんべぇに」 「わんわっ!」  中をたった一掻きされただけで、はな六のお飾りはびゅうっと精液を噴き上げた。生暖かい体液はすぐ外気に温度を奪われて、冷たくはな六の腹部を濡らしていく。腰から力が抜け、膝ががくがくと震えた。 「おぉ、前よりも具合がよくなったいな。すげぇ、締めつけてくらぁ。なっから気持ちいいぜぇ……お前さんも、気持ちよさそうだ、なっ!」 「んんっ! き、気持ちよくなんかあるもんか……んうぅっ……!」  ぢゅぽんっとサイトウがはな六の中から一物を引抜きいた。膝立ちになってはな六の目の前に突きつけ、はな六の手を取り一物を握らせる。それは先端から根元まで、たっぷりの粘液にまみれぬめぬめとして、芯がこの上なく硬く、薄皮のすぐ下を這う血管は隆起し脈打っている。はな六は思わず息を飲んだ。粘液でべちゃべちゃに濡れた後孔が、早くそれをここに戻してと言わんばかりにはくはくと開閉を繰り返す。はな六は一物を握ったまま、その先端に唇を押し当て、カリまでくぽっと咥え込んだ。唇を汚す自分の粘液の、ほの酸っぱくて渋い味と匂いに軽い吐き気をもよおしてえずく喉に、サイトウがぐいっと押し込んできた。げぇっと喉が嫌な音で鳴り、硬く張りつめた一物が喉奥まで侵入してきた。一物の根本に密生する茂みに鼻面を突っ込み、噎せかえるようなサイトウの匂いを嗅いだ途端、はな六の後孔は大きく口を開いて、腹の中に溜まりに溜まった粘液を一度にぼだっとシーツに溢した。 「ぐほっ、げぇっ」  はな六はやっとのことで頭を押さえつけてくる手から逃れ、サイトウの一物を吐き出して見上げた。つんと鼻の奥が痛くなって、涙が込み上げてくる。 (このボディはダメだ。腹の中を気持ちよくするためなら尊厳も恥も平気でかなぐり捨てる) 「サイトウ……」  上目遣いに哀願すると、サイトウはうっとりと目を細めてゲヘヘと笑った。 「可愛いねぇ。俺様に挿れて欲しくて仕方がないのねぇ? ほら、どんな体位でやって欲しいのか、言ってみなァ」 「わんわ!」 「ほっか。ワンワンみたいなのがいいんか。よしよし、やってやらぁ」  違うそうじゃない! だが四つん這いにされ後ろから突かれると怒りも何もぐずぐずに溶けてなくなってしまう。ぽこぽことサイトウの先端がはな六の奥を叩く。熱くて固い幹がはな六のいい所を擦り上げる。腰骨の辺りを大きな手が乱暴に掴んでくることすら気持ちいい。

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