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第6話 視姦
旭くんが俺の腕を縛っていたベルトを外してくれる。ずっと同じ位置にあったからか、腕を下ろすときに肩や肘の関節が少し軋んだ。
それと合わせてベルトで打たれた背中もヒリヒリと痛む。
この痛みも旭くんから与えられた痛みだと思えばいとおしいと思う。
「ほら、はやく」
からだの痛みに悦んでいると、早くするように促され右手で勃ち上がったそれを握りこむ。
旭くんに見られている。ただそれだけで普段のオナニーも惨めに感じて興奮した。
「旭くん……旭くん……あっ、ふあ……」
口から吐き出す吐息は熱い。上下に擦ればぐちゅ、ぐちゅ、と先走りが音を立てる。
「いつもは早漏なのに、なんだかえらく時間がかかるじゃないですか」
「お願い……あさひく、命令して……イケって、出していいって……あひっ」
「ええ? オナニーですよ、これ。勝手にイッたらいいじゃん」
無慈悲に言い放たれ心がぎゅう、と締め付けられた。
堪え性のない俺に対しての罰なのだろう。
「ほら、目の前におかずがありますよ?」
そんな真っ黒な罰の中に、いつも一滴の白い蜜が垂らされる。
まだ下半身を晒したままの旭くんがちらりと股を開き、右足を俺の口元に差し出してきた。
いつの間にか口の中に溢れていた唾液を飲み込む音が響く。
そのきれいな足を舐めようと舌を突き出すと、頬を足で打たれる。旭くんの右足は冷たかった。
その右足に左手を添え、その冷えた爪先に頬擦りをしながら右手で硬くなった自分のモノを擦り上げた。
「ふふっ。一生懸命な先輩、すごくかわいい」
旭くんの発する言葉にカッカとからだが火照る。
「俺、斎藤先輩のこと、ちゃんと見てますよ」
「ひっ、ひぃっ、ああ~っ!」
見られている。心拍数が上がる。涙が溢れた。決して悲しい気持ちではない。歓喜の涙だ。その涙とともに俺の先端も膨れ上がり、果てた。
「たくさん出ましたね。でも俺の足、汚れちゃいましたよ?」
慌てて旭くんの足にまで飛んだ精液を舐めてきれいにする。ちらりと旭くんの顔を見れば、とても優しい顔で俺を見下ろしていた。
そのあとは無言で身支度を整えて、こっそりと落語研究部の部室を出る。
18時。テスト前だからか、誰とも会わずに正門までたどり着いた。
駅前はさすがに同じ高校の制服とすれ違う。
ほんの少し距離をおいて、でも寄り添うように一緒に改札を進む。
「童貞。俺で卒業しちゃいましたね」
駅で電車を待っている間、旭くんが俺にだけ聞こえるような声で言った。
話している内容はアレだけれど、そう言って笑う旭くんは普通の男子高校生だ。身長のわりに童顔でとても幼く見える。
「うん」
「まぁ、あんなふうにしてくれる女子なんて、簡単に出会えないですもんね」
何気ない一言だけれど、どこか独占欲を感じるその一言に胸が高鳴った。それを嬉しいと感じる反面、じゃあ旭くんは? という疑問と不安に押し潰されそうになる。
「あのさ、旭くん」
「なんですか?」
「旭くんは、童貞、じゃないの?」
「非童貞、非処女ってやつです」
じくじくと胸が痛む。やめておけばいいのに、聞いてしまった。答えを聞いて落ち込むことは分かっているのに、だ。
「そっか……そうだよね、旭くんかっこいいもんね」
「そんな俺は、嫌ですか?」
困った顔でそう言った旭くんにギクリとする。
「そんなことないよ!」
慌ててそう返事をした。
別に嫌というわけではない。いったい過去どんな男や女が、旭くんの肉を堪能したのか。それが気になるだけだ。
そう、ただの嫉妬だ。
この気持ちがバレたら、捨てられるかもしれない。躾のなってない俺を、嫌いになるかもしれない。
「あのさ、今さらこんなこと聞くのもなんだけど、どうして俺なんかの彼氏でいてくれるの?」
身の程知らずなマゾの嫉妬なんて、本当に醜い。
頭では分かっている。やめておけばいいのに言葉が抑えられない。
「斎藤先輩に出会うまで、ずっと悩んでいたんです、俺」
「え?」
旭くんはそれだけしか教えてくれなかった。
大きな音を立てて電車がホームに入ってくる。電車から人が降り、そして乗る。この時間の電車は混んでも空いてもいない。
先ほどまでの会話は終了。俺は手すりに、旭くんはつり革に掴まってふたり並んで窓の外を見る。
ずっと会話はなく、ただふたり電車に揺られた。
あと一駅で俺の家の最寄り駅というところで、旭くんが俺の腕を掴んだ。
「ねえ、斎藤先輩。もしかして俺、不安にさせました?」
「え、なんで?」
「なんとなく。悲しそうな顔してるから」
「そんなこと……」
ない、と言えばいいのか、ある、と言えばいいのか。俺が勝手に傷ついてるだけだ。旭くんが悪いわけがない。
「そういえば、斎藤先輩ってテスト勉強どうやってるんですか?」
「テスト勉強? 基本暗記かなぁ」
理解よりも点数が取れたらそれでいい。なのでその日限りの暗記で点を取るために暗記をする。そして忘れる。
「へえ。先輩、親って土日いますか?」
「うーん、基本的に仕事でいないよ。父さんは運送屋勤めだから土日のが忙しいし、母さんは仕事でよく海外に行ってるんだよ」
「じゃあ明日の土曜か日曜、先輩の家に遊びに行ってもいいですか?」
「いいよおいで! わぁ、そういうのはじめてだね!」
「ついでにテスト勉強も教えてください。俺ここの高校スポーツ推薦で入学したから、ぶっちゃけあんまし勉強分かんないんですよね」
「うん、いいよ! あーでも1年の授業内容、覚えてるかなぁ」
電車のアナウンスが最寄り駅への到着を告げる。一度だけ大きく横に揺れて電車が止まった。
「やっと、笑ってくれましたね」
「え?」
「じゃあ斎藤先輩、また明日。夜、明日の連絡しますね」
「う、うん……! また明日ね!」
たぶん俺の言葉は最後まで聞こえなかっただろう。途中で電車のドアが閉まったからだ。
遠ざかる旭くんを見つめた。旭くんもつり革に掴まったままこちらを見ている。
俺は、旭くんが好きだ。
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