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 ガラリと教室のドアを開けた。既に中にいた生徒が一斉にこちらに視線を向け、内心ひるみながらも構わず自分の席へと向かった。窓側一番後ろなんて、ラッキーだ。  しかし、席運ガチャには成功したが、どうやらクラスメイトガチャは大失敗のようだ。みな不躾な視線を遠慮なく森塚に向ける。それもそのはず。中等部の頃から、優秀な生徒は一纏めにされがちだからである。  その方が指導もしやすいし、もっと能力を伸ばすことができる。つまりは、みんな顔見知りであるということ。このクラスで持ち上がりではないのは、自分くらいなのではないだろうか。  何故このタイミングで、二組になってしまったのだろう。何か、問題が動いている気がしてならない。もっと、上の……それこそ理事長クラスの意思が関わっているような。頬杖をついてHRが始まるのを待つ。しばらく座って時間を潰していると、突然影がかかった。何だ?と顔を上げると、そこには見たくもない人間がいた。  日野原真琴。今朝、間接的にだが、怒られるきっかけを作った張本人。中等部の頃から折り合いが悪かったが、まさかクラスが一緒になるなんて思ってもみなかった。 「よう、お前もいるとはな、風紀の。どんなコネ使ったら高等部から、しかも二年生から二組になれるんだろうな」 「……別に俺が望んだわけじゃない。それに、お前に言われる筋合いないよ」  一種即発の空気に瞬時に変わる。昔からそうだ。日野原という男は、事細かに嫌味を言わなければ気が済まないタチなようで、風紀と生徒会に分かれた今も、その犬猿の仲は健在である。むしろ、どんどん悪化している。 「お前、うちの一年に無理難題押し付けただろ。ああいうの、やめてくれないか。迷惑だから」 「お前んところの新人は、あんな簡単な仕事も一人でできねぇんだな。一人じゃ何もできない、お荷物ばかりで大変だな」  嫌味の応酬が続き、険悪な空気が広がっていく。言い合いはヒートアップし、何事かと周りの生徒たちも成り行きを見守る。とはいえ、森塚に味方はいない。大半の生徒は、優秀で外面がいい日野原の方につくのだ。分かってはいる。……分かってはいたけれど。 「やっぱりコネだよねー。こんな時期にクラス替えなんてあってないようなもんだし」 「あいつだけ異端なんだよな。経歴もそうじゃん?」 「程度が知れてるっつうかね」  笑い声とともに聞こえてくる悪口の数々に、聞こえていない振りをするのも疲れるというのに。神様、俺が何かしたでしょうか。もう、無理ですよ。と思ったって、今さら学園を辞められるわけでもなく。結局、我慢するしかない。  学園を卒業して黎明軍に所属するときには、配属希望が出せるから、今よりも遠い場所……僻地なんかを選べば、少なくとも今の環境よりはマシだから。だから、それまでの辛抱だ。頑張れ、と心の中で自分を励ました。   

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