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新学期が始まって数日。環境の変化にも慣れ、いつも通りの日常が戻っていった。
今日は一時間目から防衛学の実践授業だ。犯行現場に出動した際には、基本的に武器を使わなくても制圧できるよう鍛えていなければならない。
武器や能力を使うのは最終手段で、黎明軍は民間人を怪我させないためにも、素手での戦いを推奨している。もちろん向き不向きがあるため、あまりにも身体的に恵まれない場合は、免除される。そういう時は、サポートメインに戦えるよう、情報処理系や諜報系で活躍できるよう鍛錬を積むことになっている。
人間に向かって能力を使うのは最終手段で、むやみやたらに使用してはいけないことになっている。
「それでは、二人一組に分かれて」
教師の声に、生徒たちは立ち上がる。
今日は受け身の復習だ。こういうのは、繰り返し練習するのが一番良い。能力者といっても、肉体的に鍛えておいて損はない。というかむしろ、メインは肉弾戦になることが殆どだ。
さて、ペアを組まなければいけないが、どうしようか。チラリと見渡してみても、大体は友人と組んでいる。……ヤバい、絶対に余る。余ると、こういう場合──……
「森塚、余ってるのか?なら先生と組みなさい」
背後に気配を感じて振り返った。や、やっぱり……と絶望的な気持ちになりながら、声の主を見上げる。百七十五はある森塚より遥かに上背がある体育教師の宮崎だ。クラスの人数が奇数であるため、どうしても余ってしまうのだが、さすがに力差がありすぎなのではないか。
「あ、あの……俺じゃあ宮崎先生の相手にはならないですよ……」
「やってもいない内から逃げるんじゃない。言い訳はいいから、やるぞ」
あまり気乗りはしない。公開処刑と同じではないか。どんよりと気分が落ち込むも、宮崎はやる気に満ち溢れているため、見逃してくれなさそうだ。
……やるしかないか。腹をくくり、パチンと両頬を叩く。
「……お願いします」
「あぁ、いつでもかかってこい」
結論から言えば、公開処刑なんて比ではなかった。これ体罰じゃない?と思うほど、指導が苛烈で、委員長である沖が止めに入らなかったらどうなっていたか。少しゾッとする。
宮崎は悪い教師ではないが、少々熱血すぎるきらいがあり、森塚はあまり得意ではなかった。
体のあちこちにできた擦り傷に触れていると、沖が手を貸してくれた。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
それだけ言うと、沖はクラスの輪に戻っていった。その隣には日野原もいる。こちらを見ながらクラスメイトと談笑する姿に、なんとも言えないモヤモヤが残った。
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