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 一週間後、ついに講演会当日となった。今日ばかりは生徒会側と協力していかなければならないのだが、これがまた色々あった。  詳細は伏せるが、まぁ、報連相がお互いできないという。お互いに話しかけたくないと意地を張るので、その分下っ端である自分たちの仕事が増えること増えること。  山倉は毎日ピリピリしているし、それを感じ取った下の学年が怯えながら仕事をする。当然ミスも多い。ちなみに、それは向こうも同じような状況であることは、渡辺に確認済みだ。人のこと言えないじゃん、と愚痴を言い合ったのも懐かしい。仕方ないので走り回ること数日、なんとか体裁だけは保つことができた。  今日の仕事は見回りだけであるため、生徒会と顔を合わせることは少ないため、それだけは気楽だ。見回り業務は持ち回りで行う。朝から仕事に当たっていたが、そろそろ休憩時間になる。風紀委員に支給されている専用の端末に、同期から交代のメールが届いていた。  風紀室に向かうと、中にはメールの主である日浦がいた。特に異変は見当たらないことを伝え、今度は自分が風紀室に待機する。  一応誰か一人は風紀室に待機しておくようにもなっているため、見回りから交代した者がやることになっていた。  とはいえ、特にやることはなく、ただそこにいればいいだけの簡単なものだ。休憩時間と解釈し、小腹も空いているため、簡単な軽食だけでもとっておくかと、もそもそとおにぎりを口に運ぶ。  ぼんやり携帯を弄っていると、ピコンとメッセージが届いた。 「え、高野……?」  なんだろうと思ってアプリを開いてみると、そこには高野から『たすけて』とだけ。何かあったのかもしれない、と急いで電話をかける。数コールしないうちに、すぐに出た。 「っもしもし?どうした、何があった?」 『彰人……、ごめ、助けて、くれ……』  電話から聞こえてきたのは、弱々しい、だが何かに追われているように焦っている声だった。 「今どこにいる?迎え行った方がいいか?」 『風紀室の近くにいる、から……、はっ…、匿って、ほし……、』  すぐに飛び出して、高野を探す。右手の方から走ってくるのが見え、すぐに風紀室の中に入るよう促す。そして、奥の方にある取調室へと連れて行った。  普段はあまり使われていない取調室は、風紀委員の仮眠室のようにもなっているのだ。ベッドに座らせ、息を整えてもらう。すぐには喋れないほど息が上がっていて、相当走ったのだと伺える。ペットボトルの水を渡すと、緩慢な動作で少しずつ飲んでいく。呼吸がようやく落ち着いたところで、何があったか問う。 「……一組って、今日の講演会の時にも、特別に参加できるって言われて……、それで、聞いていた場所に行ったら、いきなり口塞がれて、それで、」  恐怖に駆られているのか、高野の目には薄っすらとだが涙が滲んでいる。どうやら、いきなり襲われたということは分かった。  しかし、一組向けにOBが指導するなんて、こちらは聞いていない。渡辺からもそんな情報は貰っていないので、それは何かの間違いだと考えられる。  念のため新聞部に確認の連絡を入れてみると、「そんな情報は知らない」と返ってきた。つまり、高野はまんまと誘き出され、そして被害に遭ったということだ。  なんとか振り切って逃げれたからいいが、このままどこかに連れ去られていたかもしれないと思うと、安心はできない。  落ち着かせるように背中を撫で、辛いだろうがさらに状況を整理していく。 「高野、そいつ、どんな格好をしてた?髪型とか、特徴……」 「……軍」 「……え?」 「れ、黎明軍の服を着ていた」  まさかの事実に、思わず驚愕で目を見開いた。味方のはずの黎明軍が後輩の学生を襲ったということ。それはつまり、内部で組織だった犯行が計画されているのではないか。

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