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 どういうことだ?というか、今日来ているはずのOBは、全員で十人。今の時間だったら、体育館で全体講習をしているはず。付近で警備をしている同じ二年生の日下部に連絡を入れてみると、まだ終わっていないということだから、そもそも高野と接触していることの方がおかしい。  まさか、侵入者だろうか?可能性はなくはないが、かなり低いと森塚は判断する。とはいえ、現状不審者がいるのは事実で、交流会に紛れて何かをしようとしている。  とにかく、高野の保護を優先しなければ。でも、誰に報告すればいい?委員長である結城は、司会を務めているから、無理だ。山倉も本部にすし詰めになっている。  どうしよう、と焦っていたところに、コンコン、とドアを叩く音がした。ドキン、と心臓が跳ねた。  まさか、高野を追っていた犯人かもしれない。というか、可能性は大だ。応対していいものか、居留守を使うべきか。 「……あの、どうかしましたか?」 「──!なんだ、人がいたのか。少し迷ってしまってね、ここはどこだい?」 「……ここは風紀室です。体育館だったら、ここを真っ直ぐ行けばすぐに着きますよ」  若い金髪の派手な男が、そこにはいた。このまま無視をして中に入ってこられても困る。これが良かったのか悪かったのか判断はつかないが、少しは時間を稼げるだろう。  早くどっか行ってくれないかな、と視線を逸らした。 「そっかー、良かったぁ、久しぶりに来たら、迷っちゃってさぁ。君は向こうに行かなくていいの?」 「俺はここで待機中なんで。それだけなら、失礼します」 「……あぁ、待って。まだ聞きたいことがあるんだ。……暗めの髪色の、背の高い子知らないかなあ」  ドアを閉める寸前、手首を掴まれた。しかも、かなり力が入っている。握りつぶされそうなほどの強さに、思わず顔をしかめた。 「し、知りません、そんな生徒。ここには、俺しかいないですよ。すいません、離してくれますか」 「そんなはずないよ。だって、俺には“見えてる”から」 「──‼︎」  隙を突かれて中に侵入されてしまった。意外と動きが素早い。取調室の扉は鍵を閉めてあるから、そう簡単には見つからないはず。──そう思っていたのに。 「ここか。随分と手こずらせてくれたな」  たった一回の蹴りでドアノブを破壊し、あっさりと中に進んでいく。慌てて金髪の男を止めようと、森塚も奥へと走る。 「ったかの……‼︎」  金髪は高野の両手首を頭上で拘束し、鼻を覆うように白い布をあてがっている。暴れていた高野からゆっくりと力が抜け落ち、グッタリとしたまま動かなくなった。  このままでまずい。  ほぼ反射的に金髪の男に飛びかかるが、簡単に振り払われてしまう。背中を思い切り机の脚にぶつけ、そのままズルズルとへたり込んだ。痛みに呻く森塚の右肩を掴むと、燃えるような激痛が走った。 「ぃあ゛、あ゛ッ……!」  あまりの激痛に喉から声が出た。肩を外されたということはすぐに分かった。しかし、なぜそんなことをされるのかまでは理解できない。肩を抑えながら男を見ると、そいつは高野を肩に担いで、廊下に出ようとしているところだった。  あぁ、まずい。逃すわけにはいかないのに、肩が痛すぎてすぐに動けない。最後の力を振り絞って男に殴りかかった。さすがに勝てるとは思っていないが、みすみす逃すわけにもいかない。それは、自分のプライドが許さなかった。  目の前で助けを求めている人を助けないと、あの日の自分に顔向けできないから。  だが、やはり実力差は歴然だった。森塚の拳は難なく避けられ、鳩尾を抉るように力一杯男の拳がめり込んだ。肺から空気の塊が吐き出される。  体中が激痛に苛まれ、呼吸を繰り返すだけで精一杯だ。動けなくなった森塚をよそに、男は高野を抱えたまま風紀室を去って行ってしまった。残された森塚は、荒い呼吸を繰り返す。息を吸うだけで内臓に痛みが走るような気がして、大変だった。  痛みを堪え、なんとか体を起こす。鞄の中から小型の音楽プレイヤーのようなものを取り出した。イヤホンを耳につけ、音量を大きくする。周波数もしっかり合わせて、と。  しばらくすると、会話が聞こえてきた。 『……成功……、このまま……、…………』 『よし…………な……、…………ぞ……』  先ほど男に殴りかかった拍子に、盗聴器を取り付けておいたのだ。ノイズ音が酷く、かろうじて聞こえる程度だが、話を聞くに、どうやら仲間と合流したのだろう。 『ここまで上手くいくとは思ってなかった。早く行きましょう』 『ああ。すぐにあの方の所へ連れて行かなければ』  ……あの方?ということは、まだ他にも仲間がいるんだ。一体、何人の規模になるのか。というか、白昼堂々と生徒を攫っていくなんて、ありえない。こっちの情報が漏れているとしか思えない。  そうこうしているうちに、侵入者は動き出した。遅れを取らないよう、森塚もすぐに動き出す。SOSを出す体は無視し、鞭を打って動かす。  イヤホンから聞こえる音は、草を踏みしめる音がしているから、恐らくは寮がある方へ向かっているのだろうと推測する。  どうやって侵入してきたのかは分からないが、そう簡単にはいかないはず。この学園一帯は結界が張られているため、招かれざるものは弾き出されるというのに。  盗聴しながらでも走っているうちに、第二校舎付近まで来ていた。  そんな時、背後から「──よう」と誰かに声をかけられた。

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