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心臓が縮み上がるほどビックリしたが、そこにはジャージ姿の多紀がいた。
「た、き……、お前、こんなところで何してんの」
「それはこっちのセリフ。もしかしてなんかあった?」
心配そうに覗き込む多紀に、うまく顔向けできない。
多紀は高等部一年の時に同じクラスだった。ゲーム好きの彼はほぼ引きこもり状態で、単位を心配した当時の担任の命により、多紀の城(自室)へ顔を見に行った時からの付き合いである。明るい茶髪が無造作にはねている様子から、今日もゲーム三昧らしい。
なんて言おうか迷っていたが、そういえば、と黎明軍の男を見なかったか尋ねる。
「スーパー寄ってから部屋に戻ろうと思ってたけど、誰ともすれ違わなかった。森塚、お前マジで大丈夫かよ……。誰かに言った方がいいんじゃない?」
正直、今からやろうとしていることは、到底信じてもらえるようなものではないから。侵入者がいて、そいつらが高野を連れ去ったなんて、突飛なこと。どうやって伝えようか言いあぐねていると、「俺から教えてあげようか?」と声が響いた。
「……わた、な……べ……?」
「そうだよ。森塚、こんなことになってるなら、すぐに俺に教えてくれればいいのに」
何故だろう。いつもの渡辺じゃない気がする。にこやかだが、有無を言わせない雰囲気を纏っている気がして。そのことに、多紀は気づいていないのか、普通に会話している。だけど、一度浮かんできた違和感はそう簡単に拭えるものではない。どう対応するか迷っていると、渡辺が口火を切った。
「OBに混じって、不審者が侵入してきたんだ。俺たち新聞部が気づいたのは、つい半刻前。そっから情報を整理して、森塚に教えなきゃって、走ってたわけ」
「情報を入手したって、まさか……」
「それは、まぁ……ハッキングとかね」
堂々とした言いっぷりに、森塚はそういうもんなのかと顔を引きつらせていた。最早今さら何も言うまい。
「森塚。侵入者はまだ遠くへは行ってないと思うよ。俺、どこに行くか教えてあげようか」
渡辺の言うことは本当なのだろうか。本当に、善意でやっているのか……?今まで彼のことを疑ったことはなかったけど、今はどうしても信用しきれない。こんな感情を抱くなんて、友人に申し訳ないやら、もう何が本当のことやら、どんどん分からなくなってくる。
「いや、渡辺はそのことを、結城さんと山倉さんに、」
「不審者って……なに、どういうこと……?」
森塚の声を遮ったのは、多紀だった。声が震えていて、動揺しているのが見て取れる。多紀はたまたまこの場に居合わせたから、何が起こっているか分からないのだ。
詳細な状況を伝えて巻き込んでしまうのは避けたいが、事情を知ってしまったからには見過ごせないという多紀の心理も分かる。
しまった。多紀に対する配慮を、全然考えていなかった。一瞬固まった森塚に、多紀はさらに疑惑を深めていく。
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