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 どうにかしてこの状況を打破できないか、森塚は必至に頭を動かした。しかし、軽くパニックになりかけていて、いつもはできる冷静な判断も難しい。  そんな矢先に、渡辺の甘い言葉が囁く。 「俺の情報、役に立つと思うんだよね。森塚だったら、知ってるだろ?」  その通りだ。今まで何度もそれに助けられているのも事実。こんなところで足踏みしている時間だってない。  だが、このタイミングで渡辺が現れたことに、違和感を覚える。誰かの書いたシナリオの通りに動かされているような。自分が知らず知らずのうちに深みに嵌っていくような、奇妙な感覚が胸にあるのだ。 「森塚だったら、ちゃんと判断できるはずだよ」  ぐるぐる考えが回る。ギュッと手を握る。 「……渡辺。教えてくれ」  苦渋の選択だ。目を細めて渡辺は「了解」と機嫌良く返事した。  渡辺が教えてくれた抜け道というのは、化学室だった。なんで室内?と思ったが、大人しく着いていく。  渡辺は教卓付近の壁をよく探りを入れている。何の変哲もない、ただの壁だと思うが、よく見ると一箇所だけ丸く小さく凹んでいる所がある。そこに渡辺は、青いピアスをはめた。  その瞬間、古めかしい音を立てて、壁が動き、壁の向こうに階段が現れた。地下に繋がっているようだ。一体、これは何なのだろう。どこに繋がっているのだろう。恐る恐る中を覗き込んでみる。 「ここから行けば、教師どもにはバレずに外に出られるよ。結界も作用しない、地下通路だ」 「……あとで、詳しく話聞くから。渡辺、山倉さんたちに、このことを伝えておいてくれ」 「うん、いいよ」  渡辺の返答を聞いてから、意を決して地下に進んでいく。イヤホンから聞こえる音は、どんどん雑踏の中に紛れていってしまうから、早くしないといけない。 「待って。俺も行く」 「……え?」 「森塚、一人で行くんだろ?だったら、俺も連れてってくれよ。少しだったら、役に立てるかもしれない」  多紀は銃の名手で、かなり成績がいい。戦力としては申し分ない。だが、こんな事情に巻き込むのもどうか。 「森塚がダメって言っても、俺行くから。今さら後には引けんし」  そう言うと、多紀はズンズンと奥へ進んでいった。急いで後を追う。これでいいのかは、分からない。だが、分からないことは、後でいい。今は高野を救うべく、動かなければ。  ずっと続く長いトンネルのようだ。  そこを二人は無言で突き進んでいく。時間がないのは分かっている。だから、足が止まることはない。その間にも手がかりがないか、森塚はイヤホンからの情報を読み取るのに必死だ。どんな僅かな音でも逃さないという気迫が感じられる。  僅かに聞こえる音。足音に混じって、街の生きた音が微かに聞こえる。そして、さらに小さな音で、これは──…… 「……商店街?」  藤ヶ丘学園から一番近い街の、とある一角で流れる音楽にそっくりだ。もうそこまで行ってしまったのか。今から走って追いつけるだろうか。不安が胸をよぎるも、もう戻れない。とにかく、手がかりをつかまなければ。そして、高野を連れて帰るのだ。隣を走る多紀と目配せし、さらにスピードを上げた。

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