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「……っ、ハァ……、は、……はぁ。本当にここであってるのか……?」  辿り着いたのは、一見何の変哲もないビルだった。街に降りた森塚たちは、あれから必死に聞き込みをし、なんとかこのビルに目星をつけることができた。  なんでも、若い集団がよく出入りしているのだとか。渡辺に調べてもらったところ、ここ最近、とある中小企業が買収したという。その企業というのが、冷泉という、イベントの企画から運営、その他手広くやっている会社だった。  それがどう関係しているかは、今調べてくれているそうだ。ついに敵の目前まで来てしまった。  心臓がドキドキするのを押さえつけ、震える手でドアノブを回す。鍵はかかっていなく、あっさりと開けることができた。そのまま盗聴器を頼りに静かに進んでいく。 「……なぁ、森塚。本当に、ここにいるのか?」 「確証はない……けど、違ったら違ったで謝ればいいだけだ」 「マジで怖いな……。一応持ってきたけど、役に立てるか……」  小声で相談する。一応武器として、戦闘訓練で使用するペイント弾を持ち出していた。弾は超強力な麻酔銃を、邦枝兄に作ってもらった。今回はそれを使用する。理由は後で説明するから、と無理言って作ってもらったのだが、連絡を入れて数十分で完成までこぎつけるとは、中々どうして恐怖を感じるのだが、そこはまぁ追々。  ビルの内部は、多くの部屋があり、どこから着手していいか迷ってしまう。焦りからか思考がまとまらない。呼吸も荒くなっていく。さらに、自分たち以外の足音がして、どきりと心臓が跳ねた。慌てて壁の陰に身を隠す。 「……そっちは、いたか?」 「いや、いない。……はぁ、全く。まさかあっさりと侵入を許すなんて」 「早く探そう。そんで、侵入者なんて、いなかったことにすればいい」  ニヤリと笑う男たちの、なんと恐ろしいことか。さらには、彼らの会話から、侵入していることがバレていることを悟る。そして── 「……おい、そこの二人組。侵入者って、お前ら?」  背後から声をかけられた。全く気配がないことに、恐ろしさを感じる。生きているものは大なり小なり、気配がある。なのに、この男からは全くそれがしなかった。すなわち、生きていないものと同じほど、気配を殺すことができるのかもしれない。  多紀に気を取られている男の胸辺りに、照準を合わせる。狙うは、鎖骨。皮膚から直接吸収すれば、効き目は早いだろう。  だが、中々動いている的に合わせるのは大変だ。多紀も狙っているようだが、相手もかなり素早く、数の利はこちらにあるが、上手いこと躱されてしまう。  お互い連携を取り、壁際に追い詰めるよう動く。一瞬だが隙ができた。  森塚が引き金を引いた瞬間、驚愕に目を見開いていた男の口元が、ニヤリと歪んだ。 「っ──……!」  突然、森塚と男の間を隔てるように壁が現れた。二手に分断されてしまった。離れていた多紀は、男とともに向こう側にいる筈だ。  しまった。多紀は銃の扱いは群を抜いて秀でているが、接近戦となると弱い。 「多紀……!大丈夫か!?」  必死に声を張り上げ、友人の無事を確認する。壁に耳を当てると、かすかに無事だと声がした。しかし、無事を確認できたからといって、安堵はできない。早く合流しなければ。 「多紀!すぐに行く!だから、持ちこたえてくれ……!」  言うが早いか、森塚は駆け出した。時間は一刻を争う。いかに訓練を受けているからといって、学生であることには変わりない。対して、向こうは殆どが大人だ。その違いは大きい。体格も、経験も。  だったら、それを補うのは、知恵と体力に限る。大人にはできない柔軟な発想が今回の切り札だ。

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