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 黄色は暖かい。青は冷静、落ち着いている。緑は穏やか。黒は、なにを考えているか読めない。    ──赤は危険。  ゆっくりと、綿谷の掌が森塚の頭に伸びる。  綿谷の力は、頭蓋骨など簡単に握りつぶせるほど強。武器を持っていないのは、その体自体が強力な武器なのである。  ミシミシと音が鳴る。あまりの激痛に森塚の口から呻き声が漏れる。 「やめろ……!」 「……!」  ピタッと綿谷の体が静止した。石になったように硬直している。 「そいつを離せ……!」 「……へぇー、お前もやるじゃん」  五本の指先をしてを綿谷に向けるのは、日野原だ。日野原の能力は、最もメジャーで数の多い念動力《サイコキネシス》だ。日野原は特に動くものを止めることに特化している。能力を使った際の副作用というものがあるのだが、念動力者の場合、多くが能力を使用している際、自身もその場から動けなくなる、というもの。  能力のせいで体が動かない綿谷と、能力を使っているせいでその場から動けない日野原という、膠着状態が引き起こされている。  ハッとした。今がチャンスだ。今だったら、確実に一撃を加えられる。だが、神経までやられたのか、しっかり握ることができない。  早くしないと……!  能力を使うのは、かなりエネルギーを消費するのだ。日野原の限界も近いだろう。それに、いつ綿谷が日野原の能力を打ち破るか分からない。あれだけ単純な腕力が強い男なのだから、力技で突破される可能性は大いにある。  震える手で、照準を定める。ものすごいプレッシャーがかかっているのが、自分でも分かる。絶対に外せないと思うと、怖くてたまらない。  大丈夫。距離は近いし、きっと当たる。当てられる。大丈夫、自分を信じて──  引き金を引く。弾は見事、綿谷の首筋に当たり、綿谷は崩れ落ちた。少し掠った程度だったが、朝日特製の催眠弾は超強力だということが証明された。ほんのり恐怖を感じるが、これほど強力な味方はいない。  ホッと息をついて、体から力を抜いた。ズルズルと地面にへたり込む。 「……大丈夫か」 「あ……、あぁ、俺は別に」  お互い深く息をついた。 「……コイツとは二度とやりたくない……」  握りつぶされそうなほど力を入れられたのだ。変形してないか少し心配になる。頭を押さえていると、分かりやすいぐらいに日野原の顔が歪んだ。  自分の代わりにダメージを負った、という負い目が日野原の中にはあった。あそこで森塚が間に入らなかったら、自分では負けていた。それが悔しいのだ。日野原は気にくわない相手が怪我をして喜ぶほど、落ちぶれてはいない。 「……悪かった」  森塚の目が大きくなる。謝罪されるなんて、想定外だ。 「……まだ、助けに行くつもりなのか」 「あぁ、そうだよ」  そう言うと、日野原は何かを言いかけて、そしてやめた。視線が泳いでいる彼の姿は、ハッキリと物事を言う性格を知っていると、物珍しさを感じる。 「そうやって、お前はボロボロになっていくんだな。自分のことは顧みずに、たった一人で」  日野原は固まっている森塚の右手首を掴む。 「日野原……?離してくれないか、」 「お前は、ずっとそんな生き方をしていくつもりなのか」  ──お前、いつか死ぬぞ。

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