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 形のいい唇から静かに紡がれた言葉に、冷やっと心臓が縮み上がる感じがした。  いつもの小馬鹿にしている感じではない、真剣な表情。  何も言えなくなって、ただ俯く。 「……ごめん」  無意味な謝罪は、その場しのぎでしかない。何で謝ってしまったのか、森塚は自分でも分からなかった。 「戻ったら、言いたいことがある。だから──生きて帰ってこい!」 「──‼︎」  バチンと気合を入れるように、日野原は森塚の手を叩いた。  目が覚めたような、気がした。  そうだ。帰る場所がある。そこに、一緒に帰らなきゃいけない人たちがいる。 「もちろん!お前も!」 ◇    二手に分かれ、二階にある部屋は全て確認したものの、どれも外れだった。あれから追っ手も来ないため、もしかしたらそんなに人数はいないのかもしれない。  あと、残るは、上の階……三階にある部屋のみだ。  ゆっくり、慎重に階段を登り、様子を窺う。見張りらしきものはない。そして、部屋も一つしかない。  普通に考えればここにいると思われる。ただ、敵の人数も分からないままに特攻するのは気が引ける。こういう場合、単純に数が多い方が有利になるのだから、どう考えたって、自分の方が不利だ。  無断で学園を抜け出してきている以上、勝算の低いことはあまりしたくないのが本音。策を練るしかない。  使えそうなものは、麻酔弾が残り四発と警棒……それから朝日特製の発明品がいくつかある。それらを組み合わせて、効果的かつ確実に救出できる作戦を立てなければ。  チラリと後ろを振り返る。今のところ階段から誰かが上がってくる気配はない。慎重にドアを少しだけ開ける。  見えた限りでは、制服を着た学生が二人、縛られた状態でソファに座らされている。高野と沖だ。目立った怪我はしていないようで、ホッとした。  中は社長室のように豪華で広い。机や椅子など、遮蔽物がたくさんある。これなら、他にもやりようがある、と頭の中で作戦を組み立てる。  見たところ敵はあと三人。この中でリーダーらしき人物は……、と、あいつだ。窓際に立つ男。こいつだけオーラが別格だ。  容姿はまだ若く見える。サラサラのストレートの黒髪で、この中でただ一人スーツを着ている。脇に立つ二人はそれほど強く見えない。それに、立ち姿から見ても、戦い慣れしているようには見えないので、割合簡単に伸すことはできるだろう。 「……だから、知らない!兄貴とは、もう何年も会ってないし、連絡だって……!」 「嘘をつくな。調べはついているんだ。お前が、『あの『沖武彦の弟だということはな」  ……?何を話しているんだろう。よく聞こうと、耳をすます。 「強情な態度はそこまでにしておいた方がいい。どうせ君たちは、あの方の元に連れていかれて、死ぬまで幽閉されるか駒として使われるかの二択しかないんだからな。……君も、だんまりを決め込んでいるけれど、君のご両親は随分と君に会いたがっていたよ」  傍らに立つ男の内の一人、短髪の方が高野に向かって話しかける。男の言葉に、高野がグッと言いづらそうにしている。 「……俺には……、俺はもう、アイツらとは関係ない……!」 「血の繋がりから逃れられるなんて甘ったれたことは考えないことだ。君が思っている以上に、世界は辛く厳しい」  冷たい言葉が降り注ぐ。何かを言いかけて、でも諦めたように高野は項垂れた。 (んん……、微妙に聞こえない……。もう少し大きな声で離してくれるとすっごく助かるんだけど) 「──みぃつけた」 「…………⁉︎」  耳元で声がした。と思った次の瞬間、背中を強く蹴られた。バタン!と大きな音ともに、地面に押さえつけられる。右腕は背中で固定され、体幹が浮き上がらないよう膝でロックしてある。 「手こずらせやがって……このガキが」  森塚を捕らえているのは、櫻井だ。倒したはずなのに、とか、何故ここにいるのか、ということよりも、絶体絶命のピンチに軽くパニックになる。 「なっ……!こいつ、侵入者の……!」 「こんなとこまで来たのか⁉︎」  ざわめく男二人に対し、スーツの男は特に驚きはしない。 「やぁ、櫻井。それが例の小鼠かな」 「はい。仕留め損ないましたが、次は確実に」  背後から声がする。強い力で押さえつけられているので、櫻井のオーラを見る余裕がないが、低い声で淡々と話す様が、彼を本気にさせてしまったということが分かる。  今ここでこいつらを野放しにしたら、間違いなく高野たちは連れて行かれる。 ──そんなことは、させない。目の前で誰かが危険な目に遭っているというのに、見過ごすことなんてできない。

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