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ゆっくりと目を開ける。薄っすらと開けた視界には、白い天井と、綺麗なブロンドの髪が見えた。
(天井……しろい。ここ、どこ……だ……?)
思考がまとまらない。数回瞬きをしていると、森塚が目を覚ましたことに気づいた和泉が、ベッドに突っ伏していた姿勢から跳ね起きた。
そのまま、「彰人くん……!」と感極まって泣きながら抱きつく。
「彰人くん、ここが何処だか分かる⁉︎」
「ここ……わか、ない……」
「うん、うん……そうだよね。ここ、学校の保健室だよ。痛いところ、ない?あ、お水!喉渇いてる、よ、ね……」
ずずっと鼻をすする音が聞こえ、森塚はなんとかそちらへ視線を向けた。大粒の涙を流さないように耐えている和泉に、森塚は少し驚いた。
「ごめん……ごめんね、泣くつもりなかった、のに……。でも、彰人くんが一番怪我酷くて、緊急で手術したの」
「しゅじゅつ……」
「しばらくは絶対に安静にしないとだよ。もう、ほんと何でそんな無茶したの……‼︎」
泣きながら訴える和泉に、森塚は何も言えなかった。何を言っても、結局は言い訳になってしまうからだ。
まだ脳と体は休息を訴えていて、自然と目が閉じていく。和泉の名前を呼ぶ声がどんどん遠くなっていき、ついにはプツンと糸が切れたように真っ暗になった。
次に目が覚めたのは、空腹を感じてからだった。窓からは朝焼けの空が見えている。
「起きたか」
低い声がして、視線だけそちらに向ける。気配が全くなかったので少し驚いたが、そこには椎名がいた。
「調子はどうだ」
「……めちゃくちゃ眠い……」
「あんだけ出血してりゃあ、なぁ……。そりゃ貧血の症状でもある。点滴してるから、まずはゆっくり休めよ」
さて、と椎名はパイプ椅子に腰を下ろし、棒付きキャンディを口に含みながら、「聞けるところだけでいいから、詳細を伝える」と森塚が意識を失っていた間の出来事を話し始めた。
現場近くの一般病院に運び込まれた森塚は、怪我の容体が思っていたよりも酷く、すぐに緊急手術を受けた。手術自体は成功しており、麻酔が効いている間に学園まで帰ってきていた。高野と沖、日野原、多紀の四人は、怪我自体は軽症で、もう普段通りの生活に一応戻っているとのこと。
ちなみに、保健室はそのまま病院としての機能も担っており、怪我や熱などの病気になった生徒は、入院ができる施設になっている。
「交流会から二日経ってるからな。……あぁ、和泉が昨日の放課後、お前が少しだけ起きたっつってたけど」
和泉と話したのは、なんとなく覚えている。泣きたいのを我慢している姿に、非常に申し訳なく思ったのも。
「授業のことは心配するな。脱走したのもまぁ……大目にみてやるよ」
ただし、と椎名は森塚の顎をぐいっと上げる。いきなり顔が近くなり、瞠目する。
「どうやって学園を出たのか……教えてもらおうか」
ギクっと心臓が跳ねた。
「あの日、結界には何も感知しなかったと理事長は仰っていた。侵入者用の結界に感知せずに学園を出ることは不可能だ。──誰に唆された?」
椎名は気づいている。自分がどうやって学園の外に出られたか。それを手引きした人物がいること。
だが、そのことを誰にも言うつもりはない。渡辺が怪しいのは分かっている。それでも、彼に悪気があったとは思えないから。もし何か考えがあるのなら、自分の口から聞きたかった。
静かに首を振る森塚に、椎木はため息をついた。
「あんまり強情なら、無理にでも吐かせていいんだぜ」
耳元で椎名は「吐かせる方法はいくらでもあるんだからな」と半ば脅しをかける。
グッと喉が詰まるような感じがした。それでも、森塚は言うつもりはさらさらない。布団を頭まで被って意思表示する。
「そんな子供みたいなことしなくても……」
「…………まだ子供です」
苦笑しつつ椎名は「今はまだ、無理に聞かねぇから安心しろ」と大きな掌で頭頂部を撫でる。椎名はそのまま病室を後にした。
どうして引いたのかは分からないが、よかった、とホッとするのであった。
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