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 クラス内には、まだ森塚を認めない空気が蔓延している。グループワークや班で組んで実習などもあり、その際は少し大変である。  普通に話せるなら、それが一番いいだろう。だが、彼らの態度は一様にして、徹底的に無視か聞こえるように悪口を言うという、非常に小学生じみたものだった。  そのような扱いを受けていることを、森塚は誰にも言っていない。教師に言っても無駄だということは身をもって知っているし、友人にこんなことを相談するなんて、とてもではないが恥ずかしくてできやしない。かといって、山倉や結城といった先輩に話すのも、なんか違うと思った。  押し黙った森塚に、山倉は「気にするなよ」と声をかけた。 「お前にとって、この学園での生活は、苦しいかもしれない。それはここを卒業しても変わらないかもしれないというのは、薄々気づいているだろ。でも、お前の周りには、数は少なくても、お前のことを慕ってくれる仲間が、たくさんいる」  確かにそうだ、と頷いた。昔に比べたら、随分環境は良くなっているのは実感している。 「お前が大切だと思うものを大切にすればいい。自分の感性を信じろ、大丈夫、お前は間違っていない」  うるっと涙が出てきそうになって、慌てて引っ込める。こんな衆人環視の中で泣いてたまるか。ゴシゴシと目元を擦っていると、じゃあな、と山倉はクラスの中に戻っていった。 「ほんと、敵わないなぁ」  ここ最近いろんなことがあり、情緒不安定なのも相まってちょっと泣きそうになる。  人が落ち込んでいる時に限って、優しくしてくるんだ、あの人は。  もちろん、言葉や態度は厳しいのだけど、それが山倉の通常運転である。  山倉と出会った頃は、もっと不安定だった。毎日言いようのない不安が頭を支配していて、ずっとしんどい時期があった。  そこを救ったのが、実は山倉である。出会いは意外と古く、なにせ森塚が風紀委員会に入るきっかけを作った人物である。まぁ、その話は置いといて。  次の試合までは少し時間がある。まだ見回りの時間にはなっていないので、二十分ほどぽっかりと時間が空いた。  どうしようかな、と考え、そういえばバスケの応援に来てと言われていたことを思い出した。 「森塚ー!今から暇?バスケの応援行こうぜ!」  榎本にも誘われたことだし、二人揃って体育館に向かう。ちょうど二組の初戦らしく、円陣を組んでいるところだった。 「おーい、二組ー!気張れよー!」  榎本の大きな声援に気づいた沖が、こちらを指差してガッツポーズをする。気合は十分のようだ。 「……おい」 「うお……!びっくりした」 「見に来てくれたのか」 「あぁ……まぁ時間あるし」  何故だか心底穏やかに「そうか……」と噛み締めているので、「早く行った方がいいぞ」とコートを指差す。 「あのさ……俺がシュート決めるとこ、見てろよ」  少しだけ身長が高い日野原を見上げると、その顔は驚くほど赤い。 「決めるの決定なのか?」  だから、笑って茶化す。こいつとこんな風に軽口を叩けるなんて思ってなくて、なんだが不思議な気持ちだ。 「ま、期待しないで見てるよ」  行ってこい!と日野原の背中を叩く。  バスケの初戦は和泉と多紀のいる二年三組とだ。こちらに気づいたようで、和泉ははしゃいで手を振ってくる。頑張れよー!と声をかけ、森塚も手を振り返した。

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