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次の試合は、一年五組とだ。風紀の後輩である志木がいるクラスで、少しばかりヤンチャな顔ぶれが多い。とはいえ、根は素直でいい子たちばかりである。
……本当、ちょっとストレートなヤンチャっぷりなだけで。下手にずる賢いタイプの方が厄介であるのは、この学園で生活しているとよく分かる。
「あ、森塚。円陣組むんだって」
先に集まっていたドッジボールチームの一人、瀬戸が森塚に話しかける。一瞬動揺して、しかし照れ臭いながらも普通の学生みたいなやりとりに、少しだけワクワクした。
こういうの、久しぶりだ。
なんせ、クラスで浮いていることが多かったから、普通に話しかけてくれるだけでも嬉しい。
招かれるまま輪に加わると、右隣は偶然にも出雲で、反射的にゲっと嫌な顔をしてしまった。それを目敏く気づく、かつ絡んでくるのが出雲の嫌なところではないかと森塚は思う。
「なんか文句でもあんのかよ?」
「……何にもないよ」
刺激しないように弱々しく返せば、チッと大きな舌打ちが返ってきた。円陣を組むために挙げた腕も、跳ね返されてしまったため宙に浮いたままだ。結局出雲とはまともに話もできず、試合開始の時間となった。
「あれ。森塚、元気ない?」
「いや……、なんでもないよ」
考え込んでいたところを榎本が気づいたが、もうすぐ試合が始まる。適当にいなしてコートに入った。
次の対戦相手、一年五組はここまで残っているため、その実力は上級生に引けを取らない。ドッジボールに実力もクソもあるかい、というツッコミは野暮である。
ここでいう実力とは、例え相手が上級生であろうと、遠慮なくぼこすかボールを投げれる、ということだ。
向こうの要注意人物は、遊馬あすまという生徒だ。遊馬は一年の星と言われているほど優秀な人材で、実技も座学も常にトップを張っており、生徒会庶務も務める極めて優秀な人物である。病的なまでにどこでも寝てしまう体質さえなければ、一組入りも間違いなしと言われていたほど。
「森塚ぁー!ボーッとするなっ!」
榎本の怒号に、どこかに向いていた意識を目の前に集中させる。見れば、先程まで頭に浮かんでいた遊馬がボールを持っている。
いかん、集中しないと。パンと両頬を叩いて気合を入れる。
豪速球をすんでのところで避け、外野に飛んでいくボールを見送る。下手に手を出してアウトになってしまうのは避けたい。敵側の内野と外野のラリーが続き、タイミングを合わせて避けていく。
少しでも気を抜くとアウトだ。なんとか緩いボールを取りたいが──……
「っうわ……!」
右斜め後ろから、滑る音と短い悲鳴が聞こえて振り返った。出雲が倒れている。ボールを避けているうちに足がもつれてしまったようだ。もうボールは遊馬の手にある。
遊馬は出雲をターゲットにしている。倒れたままの体勢では、当たってしまうだろう。そう判断した森塚は、咄嗟に出雲より前に出た。もう遊馬は振りかぶっていて、遠慮のない豪速球が放たれる。
(いける、大丈夫……!)
必死にボールの威力を殺そうとしたが、運悪く右腕に当たってしまった。しかも、怪我をした箇所だ。ジーン……と痺れが指先まで伝う。あまりの痛さに、少しだけ涙が出てきた。
だが、ボールはこちら側の陣地にある。なんとか反撃してくれれば、と出雲に手渡す。
「お前……なんで」
信じられない、という表情の出雲の言葉には返事せず「あとは、頼む」とだけ、声をかけた。
先に外野に出ていた瀬戸が「惜しかったね」と森塚を気遣った。
「でもまぁ、榎本くんすごい張り切ってるし、いけそうだよ」
楽しそうに言う瀬戸の通り、水を得た魚状態の榎本がものすごい勢いで巻き返している。これなら勝てそうだな、と上がっていた息を整えた。
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