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ポケットに入れてある端末に手を伸ばしたが、長峯が「連絡してもいいけど、それ意味ある?」と茶々を入れる。 「乱闘騒ぎで殆どの委員が出払ってるんでしょ?そんな中で、君がわざわざ連絡して余計な仕事を増やすなんて思えないな」  だって、と長峯は手を叩く。 「君、自尊心低そうだもん。自分のせいで周りに迷惑かかるなら、自分一人が我慢すればいいって思うタイプだよね」  図星なので何も言い返せない。そしてもう一つ、大ごとにしたくない理由がある。 「本気で来いよ、森塚。俺はいつでもいいぜ」  安い挑発を繰り返す速水に、何て返したらいいか分からなくなる。速水は三年生だ。ここで問題を起こしたら、今後の進路に関わってくるだろう。  だが、そんな森塚の考えなんてどうでもいいというように、速水は森塚の右腕を狙い蹴りを入れる。ほぼ完治したといっても、神経に影響があるほどの切り傷だったのだ。当然痛い。  衝撃を殺しきれず、体が壁に衝突する。体勢を立て直す前に、速水は鳩尾にパンチを食らわせた。鈍い音は、威力が遊びのものではないという証明だ。  速水は本気で自分を潰そうとしている。そのことが嫌でも理解できて、悲しいやら悔しいやら、感情が追いつかない。  抵抗らしい抵抗ができないまま、立て続けに腹にパンチを食らう。暴力の連続に、さすがに意識が遠のいていく。冷や汗をかきながら、森塚は倒れた。  意識を失った森塚を俵のように抱えると、速水は傍観していた長峯に「場所を変える」と声をかけ、先に歩いていく。 「……頼んだぜ」  ポケットに手を突っ込み、長峯は後をついていく。その顔は、何かを企んでいるように不敵に口角を上げていた。  最初に感じたのは床の冷たさ。それから、手首を縛る縄の存在だ。背中の後ろでガッチリと拘束されている。少し動かしてみたが、全然解けそうにない。  どうやら、ここは資材置き場のようだ。置いてある地図や製図板から、社会学部の資料室に見える。 「目が覚めた?気分はどうかな」  長峯は森塚の前にしゃがみ目線を合わせる。その顔は相変わらず余裕が表れている。クソっと悪態をつきながら、しかし努めて冷静になろうと大きく息を吐く。 「改めまして、風紀委員の森塚彰人くん。一回君とはよく話さなきゃと思ってたんだ」  ニコニコと笑みを絶やさない長峯だが、そのオーラは相変わらず彼が油断ならないということを示している。ジッと無言で見つめ合うこと数分。 「まぁ、今日は忠告程度に留めておくよ」 「忠告……?」 「余計なことに首を突っ込むな。お前、この間の事件に関わったな。あれは子供のままごととは違う。すぐに手を引け」  長峯は森塚の前髪を掴み顔を無理矢理上向かせ、さっきとは打って変わって低い声で話す。変わり身の速さに、一瞬戸惑う。  そして、あの事件を知っているということは、只者ではない。どこからその情報を手に入れたのか。どこと繋がっているのか、自分は全く知らないことに気がついた。 (まさか、この人が裏切り者……?)  接触してきたタイミング的には、油断できない。 「今日はこのぐらいにしといてやるよ。おい、速水!」 「──‼︎」  それまで黙って成り行きを見守っていた速水が「はいはい」と森塚の体を起こす。 「やめ……、何を、」 「ナニ、するか知りたいって?」  速水が耳元で囁く。ゴリっと股間を膝が食い込む。痛みと恐怖で冷や汗が出てくる。 「お前を犯すんだよ。そいつに頼まれたから」  言うが早いか、速水は森塚の体に触れていく。シャツを限界まで上にたくし上げられ、素肌が露わになる。手を縛られているから身をよじることでしか抵抗の術がない。  まだ自由であった足で必死に抵抗するも、もう一発腹を殴られ、脂汗が出てきた。 「大人しくしろって」 「ん……、う…!」  速水の手つきはかなり慣れており、森塚を確実に追い詰めていく。速水が突起を甘噛みするたびに、擽ったいような痛痒いような、なんとも言えない感覚が走る。  せめて声は出さないよう、必死に口をつぐむ。速水の手がズボンの隙間から、するりと侵入する。普段他人に触られる場所ではないため、不快感しかない。 「先輩、こんなことやめましょ、ぅぐ…っ!」  パチンと乾いた音が響く。平手打ちされたと認識した瞬間には、もうボロボロ涙が溢れていた。 「……なんで、」 「お前に恨みはないけど、なぁ。ちっと付き合え」  何を言っても、先輩の心には届かない。そう感じて、完全に抵抗する気力がなくなってしまった。  速水は森塚のズボンを下ろすと、森塚の足を上げ、尻の穴に指を突っ込む。最初から尻に指を突っ込まれ、痛みで呻き声を上げた。ローションなんてものはなく、受け入れる態勢ができていないそこは、当然狭いし動かしづらいはず。にも関わらず、穴を押し広げるよう指を抜き差しする。ただただ圧迫感があるだけだ。 「せんぱ、なんで、なんでぇ……!」  優しい先輩だと思っていた。仲だって悪くないと思ってたのに、どうして。  ひんやりとした冷たさに、鳥肌が立つ。息が荒くなっていく。  肛門周囲の筋は体内に異物が入らないようギュウと締め付けてしまう。埒が明かない、と速水は自身のイチモツを遠慮なく突き刺した。 「ぁ、ひぁ…!や、ぁあ゛……!」  こちらの意思なんてまるで関係ない。挿入の際にどこか切れたのか、それとも体の防衛反応か。とりあえず液体により滑りが良くなった。しかし、森塚にとっては、状況が悪いことには変わらない。  速水の腰の動きがさらに速度を増した。ぐちゅ、と耳に届く水音が自分の体から発せられていると思うと、頭がおかしくなりそうだ。 「お前を、ずっと!こうしたいと思ってた……。目ぇつけてた甲斐あったな。ほんとラッキーだわ、」  息が上がりながら、速水は挿入を続ける。  無遠慮に貫く肉棒も、身体中を這う手つきも、全部が恐ろしかった。 「ンンッ……!ん、ん…………!」  射精が終わっても、また激しく挿入を繰り返される。森塚がどれだけ抵抗しようとそれを上回る力で押さえつけ、中を穿つ。永遠に感じられるほど、その行為は続いた。  長峯は椅子に座ってジッと事の顛末を眺めていた。その手には彼の携帯が握られていた。足を組みながら机に座り、パシャパシャと写真を撮っている。何枚も、何枚も。  それを霞む視界の端で認識していながらも、森塚には止める気力が残されていなかった。 「──────よう、写真は届いたか?…………は、俺がどうしようと、お前にはもう手出しができないんだよ。それがお前の立場だ。だから大切なものは作るなって、あれほど言われてたのによぉ………………なぁ、渡辺?」  そんな会話がされていたことも気づかない。  ゆっくりと、意識がぼやけていく。もう起きていられない。それでも、最後の力を振り絞って長峯を睨みつける。涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔では説得力なんてありゃしないが、それでも精一杯の抵抗だった。

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