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着信音も切れてしまい、途方にくれる。今更だが全力疾走したお陰で体は疲れを訴えていた。座ろうとしたが、尻に違和感があるために何となく座りづらい。
「………………ふぅ」
ゆっくりと少しずつ座っていく。今更だが、仕事をすっぽかしていることに、気が重くなっていく。十時を過ぎたばかりで、それぞれ準決勝が行われる時間だ。まともに話し合いを聞いていなかったため、これからどう動いていいか分からなくなってしまった。
(……自業自得、だな)
風紀委員の風上にも置けないことをしたのだ。自分本位の行動に擁護などできない。
体育座りをしながら考えていると、手首の痕が目に入った。意識的に目を背けていたが、体が石のように固まって目を逸らせない。
震えそうになる体と心を、叱咤する。
「しっかりしろ、俺……!」
深く息を繰り返し、気持ちを入れ替える。
ピリリリリ
何回も電話がかかってくるので、流石にイラッときて、誰からか確認せずに「もしもし⁉︎」と乱暴に出た。
『おい!お前、どこにいる⁉︎』
「……日野原?」
『電話!……出ないし、昨日の今日で連絡つかないと………………心配になるだろうが』
最後の方はやっと聞き取れるぐらいの音量で、思わず「は?」と聞き返したほどだ。音楽室だけど、と答えると、『そこから動くな』とドスの効いた声が返ってきた。
言われた通り大人しく待つ。電話は繋がっており、日野原の息遣いや走る音が聞こえる。何かにつまづいたのか、時折『クソ!』と悪態をついているのに、笑いがこみ上げる。
日野原との電話に酷く安心する自分がいて、何故かおかしく感じた。うっすらと涙が滲むのも、きっと気のせい。
…………いや、気のせいじゃない、か。
「森塚……!」
本当に走ってきたのか、さっきよりも息が上がっている日野原が現れた。ツカツカと無言で近づいてくる彼に、内心ドキッと心臓が跳ねた。不自然に速くなっていく鼓動は、まるで壊れた鼓笛隊の玩具のようだ。
「ほんっと、お前バカ!居場所ぐらい、ちゃんと誰かに言っとけ!」
いきなり力強く抱きしめられ、驚いて彼の顔を見る。眉間に皺が寄って、それは不機嫌そうに思えたが、それは違うと知っている。分かってしまった。彼のその表情は、自分の不甲斐なさを悔やんでいるものだと。
「頼むから…………もう黙っていなくなるなよ」
日野原の声は震えている。それだけ心配をかけたということに、申し訳ないやら恥ずかしいやら、様々な感情が込み上げてくる。
「ごめん……ごめんなさい。今だけ、ちょっと肩貸して……」
ポロポロ、涙が溢れてくる。散々泣いて、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
その後、山倉と結城、それから相良にも諸々の事情を謝罪していった。山倉は難しい顔をしていたが、何回も頭を下げることで事なきを得た。
◇
「…………はぁ」
「おいおい、くっらい顔してんなー、森塚!」
「辛気臭いぞ、森塚!」
「俺、なんで五組と一緒に風呂掃除してんだろ……」
「それはな、森塚。お前が誰もいない所で暴走しないように、監視付きのペナルティのためだよ」
ジャージ姿の日浦が、こめかみに青筋を浮かべている。
「やっぴ~日浦。元気~?」
「あぁ、誰かさんらが騒ぎを起こしてくれなかったらもっと元気だよ」
デッキブラシにもたれかかっている朝日に、日浦はげんなりとした表情で答えた。
「ほんと、風紀委員がいるクラスでペナルティなんて、いいお笑い種だぜ」
「まぁまぁ、早く終わらせてさぁー、サッカーやろうぜ」
「あっ、賛成ー!和泉たちも誘おうぜ!」
「お前らは大人しく手を動かせ」
ブツブツと独りごちる日浦に、朝日と伊月が浴槽を磨きながら大声で叫んでいる。
「ごめんな、日浦。不甲斐ない同期で」
「……別に。どうせ五組の奴ら、まともにやらないから。人手があった方がいいし」
視線をずらしながら、 日浦は椅子に腰を下ろした。
「んな暗い顔すんなっての。まぁ、山倉さんが怖いのは今に始まったことじゃないし、現場押さえて大変だったんだろ?」
それに、と日浦は続ける。
「渡辺とかさ、……いなくなってから、お前落ち込んでたじゃん」
「………………うん」
「ちっとぐらい休んだって、バチは当たんねぇよ」
口調は乱暴だが、日浦は基本的に達観している。日浦は年の離れた弟がいるため、面倒見がよく頼られることも多い。
「……ありがと」
「ん。そんじゃ、無理しない程度に綺麗にしてこい!」
日浦はバシッと森塚の背中を叩き、喝を入れた。
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