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 場所は、いつもの所。第二図書室の地下だ。  神聖なる図書室でタバコを吸う罰当たりな野郎に、気配を極限まで殺しながら近づく。 「せ、ん、せ。どうしたんですかー?」  人当たりのいい笑みを浮かべながら、声をかける。怪訝そうな表情をする椎名を薄ら笑い、長峯は「要件は?」と声を変えた。椎名の右手が伸びてくる。予想の範囲内だ。危なげなく躱し、しっかりと向き合う。 「いきなり酷いじゃないですか。いたいけな生徒に暴力振るうなんて」 「……お前のどこが、いたいけだって?」  笑わせる、と椎名は吐き捨てるように口を開く。 「森塚に手を出したのはお前だな」 「嫌だなぁ、センセ。俺は何にもしてないですよ。ちょっと助言ぐらいは、してみましたけど」 「……それが、お前のやり方なんだな」  胸糞悪りぃ、と椎名が吐き捨てる。それを耳に入れた瞬間、長峯の目つきが変わった。 「────はっ!何を今さら。この学園のことは俺に全て一任されている。気にくわないなら、自分から──ッ⁉︎」  最後まで言うことも許さず、椎名は 長峯の首を掴んで、体ごと本棚に押し付ける。衝撃でバサバサと本が落ちる。 「あ〜ぁ……、これ、誰が片付けると思ってんだよ?いい加減大人になりなっての、椎名チャン」  首を絞められているにも関わらず、長峯は口角を上げ余裕がある笑みを浮かべる。ズルズルと体が滑っていき、最終的に押し倒される形になった。しかし、首を掴む手が離れることはない。徐々に息苦しさが勝っていき、椎名の手を離そうと力を込める。 「強姦が魂の殺人行為だと知っての行動か」 「────あぁそうですよ。叩いても殴っても折れないなら、もっと根本的に潰すしかない。根本からボッキリ折ってやらないと、気づかねぇんだよ。そうでもしないと、ああいうタイプは死ぬまで自分を犠牲にし続けるだろうな。──なぁ、分かってんだろ、先生よぉ」  長峯は、首を絞められて尚、椎名を煽り続ける。 「はん、だったら報復されるのも心構えができてるな?────喜べ、お前にも同じことをしてやるからよ」  さすがに、あの人の息子に手を下したのがマズかったか。キッと目の前の男を睨みつけながら、長峯は心の中で舌打ちをする。自分の読みが甘かった。ただ、それだけだ。  四肢の末端に酸素が行き渡らなくなり、いよいよ指先の感覚がなくなってきた。唐突に手が離され、勢いよく入ってくる空気に思い切り噎せた。体を横にして激しく咳き込む長峯の身体を、椎名は無言で仰向けにする。 「乱暴にされるのと、優しくされるの、どっちが嫌?」 「選択肢があるなら……、どっちも、…ケホ、やだ、ね」  あくまで強気な態度だ。吐き捨てるように長峯は、椎名を煽る。両手首を頭上で拘束されズボン越しに性器を握られる。同性に性交渉紛いのことをされるなんて、吐き気しかない。 「自分がされて嫌なことは他人にしちゃいけませんって、言われなかったのかよ。な──」 「なまえ……よぶ、な……」  弱々しく遮る。涙が流れることにも気づかないまま、早く終われ、と祈るしかなかった。  それが、昨日のことだ。容赦ない行為の連続に、一日経った今も腰と尻穴が痛い。  球技大会も大詰めで、そろそろ各競技でエキシビジョンマッチが行われる時間帯だ。普段雲の上の存在である生徒会や教師、学園の人気者がこぞって選出されているので、なんだかんだで一番注目度が高い。  はしゃぎながらコートに向かう生徒たち。その中には、あの森塚彰人の姿もあった。隣にいるのは仲のいい友人たちだろうか、ジャージ姿の生徒たちと笑っていながら走っている。  そう、それでいい。子供は無邪気に笑っているのが、一番似合う。 「……頼むから、そのまま大人しくしておいてくれ」  とはいえ、あの子供は一連の騒動の渦中にいる。そして、これからもそれは変わらない。せめてもの罪滅ぼしとして、自分にできること。自分と同じような存在を二度と出さないために、動いていく。 「……ほんと、狂った奴ばっかりかよ、この学園。全員まともな死に方しねぇな」  カチッと安いライターの火を、咥えた煙草の先に当てる。汚れた空気を肺いっぱいに吸い込み、灰色の煙を吐く。  どいつもこいつも、他人の心配ばかりしてやがる。黎明軍に所属する一部の人間が、毎年凄惨な死を遂げているのを知らないはずがないのに。助けるべき存在に罵声を浴びせられることだってあるのに。自分がそうならない保証なんて、どこにもないのに。 「……せめて今だけは、幸せな日常を──」  そう願わずにはいられない。煙草の煙を吸いながら、長峯は目を閉じた。  ◇ 「まっじで惜しかったな〜、優勝するかと思ったのに」 「鬼無瀬会長すごかったな。ほんと、文字通り鬼がいるかと思った」 「エキシビション誰出んの?」 「生徒会と風紀の夢のコラボじゃん!注目度ばり高いな」 「悪夢じゃなくて?」 「あ〜……、桑セン絶対最初に当たるだろ」 「教師チーム悲惨ー……」  ほぼ全校生徒が注目している。取り留めない会話をしながら森塚は、キョロキョロとメンバーを見ていると、出場者に選ばれていた日野原と目が合った。 「バスケで優勝は無理だったけど、こっちは勝つから見とけよ」  ふんす、と気合十分に宣言して、日野原は自陣へ向かった。それがおかしくて、思わず笑ってしまう。 「それでは、教師チーム対ドリームチームのエキシビションマッチ開始しまーす!観客もっと来て、もっと盛り上げてー!」  イベント委員長の声かけとともに、最後の試合が始まった。  これにて波乱と思惑に満ちた球技大会は閉幕。新学期から約二ヶ月が経過した。さて、次に起こるは藤ヶ丘学園最大の行事、文化祭の季節がやってくる──

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