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「では、来たる一週間後に控えた藤ヶ丘学園文化祭について、定例会議を開催します」  各クラス委員長、文化祭実行委員等、役員が勢ぞろいである。この会議、ものすごくピリピリしたムードで居心地が悪い。この状況の中で警備代表として一言言わないといけないのは、だいぶドキドキする。 「────では、警備の方から何かありますか?」 「はい、警備代表を務めます、森塚彰人です。当日のメンバーですが風紀委員会、加えて運動部から数名、選出しています。タイムテーブルがあるので、目を通しておいてください。警備の人間には専用の端末を支給するので、何か騒ぎが起こった場合はすぐに風紀か俺のところに連絡を入れてください。以上になりま──」 「ちょっと待って。質問、いいかな」  監査委員長の名取が手を挙げて発言する。 「臨時の警備に当たってくれる運動部の子らなんだけど、統率とかちゃんと出来てる?どういう基準で選んだのかな」 「はい、運動部の友人に聞いて、めぼしい生徒をピックアップしてもらっています。その後、公平を期すために生徒会、風紀、教員側にも確認をしてもらって選びました」 「なるほど。それじゃ、次の質問。毎年何かしらの騒ぎが起こるんだけど、それについての対処法はどう考えてる?」  グッと息がつまる。痛いところを突かれた。そう、どんなに注意しても毎年必ず事件が起きるのだ。今年は例年より警備の人数を増やす対策を取っている。そのための運動部の選出だ。  彼らには、各々楽しんでもらいながら、有事の際には出動する手筈になっている。 「事前に注意喚起は出します。その上で俺たちも見回りを強化しますし、警備の人間は一目で分かるよう区別する予定です。それだけでも抑止力になると思いますが、念のため……」 「あぁ、はいはい、分かったから。そういう水掛け論はもういいから、具体的な案を出してくれる?」  ピシャリ、名取は強い口調で話を遮った。監査委員会は、不正がないか確認するための組織で、委員会のメンバーは頭の固い生徒が多い印象を受ける。例に漏れず、名取もその傾向が強い。 「具体的な案がないなら考えて。それぐらい子供でもできるでしょ?」  勢いに飲まれて、こっちから意見を出す暇もない。呆気にとられていると、副会長の漆葉が「まぁまぁ、その辺にしておこうか」と場を収める。 「対策はしっかり考えてあるんだよね、森塚くん」 「………………はい」 「だったらいいじゃないか。ただ、確かにもっと分かりやすく書類は作った方がいいかな。次の会議までに改善しておくように。何か他に意見はあるかな、名取?」 「……いや、いい」  漆葉が話をまとめ、会議は終わりに向かった。重苦しい雰囲気を抱えたまま、森塚は椅子から立ち上がる。 「森塚くん、ちょっといい?」 「あ……はい。大丈夫です」 「当日の見回り、人足りてる?何か困ってる事はない?」  ニコニコした笑みで漆葉が話しかける。 「ありがとうございます。委員長たちも手伝ってくれてますので、今のところは」 「そう?困ったことがあったら、いつでも聞いてくれていいからね」  漆葉副会長は一般生徒の間では近寄りがたい存在だと認識されているが、実際に話してみるとそんなことはなく、こざっぱりしていて非常に話しやすい。もしかしたら、みんな見た目に引きずられて誤解しているのかもしれない。 「アイツはヤバい男だぞ」  ……と思ったら、ここに一人、認めない方がいた。 「見た目と初見の印象で騙される奴は多いが、アイツほど強かな人間を俺は見たことがない」 「そうなんですか?話しやすい人だと思ったんですけど……」 「あの男がそんな分かりやすいタマなわきゃあねぇだろ。使えないと思ったら平気で切り捨てる奴だぞ」 「……前から思ってましたけど、山倉さん、副会長のこと嫌いですよね」  まあな、と素知らぬ顔で山倉は書類にハンコを押している。生徒会と風紀委員会の因縁というのは、実際のところ、この二人の仲の悪さから来ているといっても過言ではない。いや、もっと前の代からピリピリした関係ではあったのだが、今期は専ら山倉と漆葉の関係が大きい。 「結城委員長はどう思います?」 「え……?えー……おにぎりはおやつに入りません!」 「ダメだ、おかしくなってる」  ただでさえ普段から役職持ちは忙しいのだが、今はその倍ぐらい多忙を極めている。二人だけでなく、三年生の先輩方ももれなく黒い隈ができていて、あまり疲れが取れていないのだろう。そして、それが自分たちの来年の姿だと思うと、恐ろしくておいそれと話しかけることはできない。  会議から帰ってきて手が空いた森塚は、全員にお茶を淹れてから、再び書類関係の見直しに入った。白い紙に黒い小さな文字。ずっと見ていると、目がチカチカしてくる。  少し休憩しながら、同期の井上に漆葉の印象を聞いてみた。 「んー……俺もいけ好かない人だと思うわ。だってさぁ、あの人、ちょっと時間遅れただけでチクチクうるさいんだもん」  井上はあまり漆葉のことが好きではないようだ。 「うちと生徒会って代々仲悪いじゃん?先輩から聞いたんだけど、あの椎名も学生の頃、生徒会やってたんだって。その時も風紀の人と仲悪かったらしくって、もう伝統みたいなもんじゃないの」 「椎名が……」 「俺らの代は森塚と日野原がすっごく仲悪いと思ってたけど、最近は違うじゃん」 「なんかあったん?」という井上の言葉をなんとなくそらしたくて、無言でお茶を飲んだ。なんて答えようか迷ってるうちに、井上は特に気にした様子はなく「俺、書記の武蔵野の方が怖いなー」とジュースを飲んでいた。  眉間を揉んでいると、「お二人さん、ちょっと……」ともう一人の同期である佐藤が話しかけた。 「トラブルが発生しました」  端っこの方にこっそりと集められた一、二年生委員の前に、神妙な面持ちで日下部が口を開く。 「……出店で火を使うクラスが多くて、カセットコンロ、それから家庭科室、寮のキッチン全てを使っても、足りないことが判明しました」  重苦しい雰囲気の中で、絶望的な内容が告げられる。 「もちろんイベント委員が忙しいのも分かってるし、何らかの不備があって皺寄せがこっちに来ただけなので正直俺らに非はないんだけども、ただ……全部のクラスが使えない以上、どこかのクラスには我慢してもらわなくてはいけません」  うんうん、と全員が頷く。 「早い者勝ちという理論に則ると、……その、一番書類申請が遅かったのが、三年五組になります」  つまり、誰かが説明しに行かなければならないのだ。全員サッと視線を逸らす。誰だって火種の中心に行きたくない。 (なんか視線を感じる……)  ゆっくりと前を向くと、なんと全員の視線が自分に注がれていた。 「えっ、いや、何……?」 「頼む!説明しに行ってきてくれ!」 「え、俺が!?」  嫌だ嫌だ、と首を振るも、全員が期待に満ちた視線で訴えている。 「だ……大体、これ日下部が担当だろ」 「俺は生徒会と本部、それから監査に事情を説明しなきゃいけないから無理なんだよ」 「他の人……」  見回すと、みんな無理!と大きく腕でバッテンを作っている。 「ちょっと説明に行ってくれるだけでいいから……頼む」  この通り!と手を合わせて頭を下げる日下部に、さすがにこれ以上責める気力もない。  仕方ないなぁ、と肩を落とした。

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