ズボンとパンツを同時に下げられると、頭をもたげたペニスがぷるんと姿を露にした。 鳴海に下半身の衣類をすべて剥ぎとられ、牧はその顔に若干の羞恥の色を浮かべる。 自分からもっと触ってほしいと強請(ねだ)ったものの、早くもM字に開いた足を閉じたくて堪らなくなっていた。 「牧さん……綺麗だ」 鳴海の見惚(みと)れるような甘い視線が、全身に絡みついていく。 ピクピクと小刻みに震える熱い昂りを凝視され、先端からは早く触ってと催促するかのように蜜がじわりと滲み出す。 すぐ触れてもらえると期待してさらけ出したのに、まさかのお預けを食らい牧自身も戸惑い始めていた。 体の中心が、ズクンと疼く。 いつまで見てるんだ、と目で訴えると。 ようやく鳴海の手に包み込まれ、再び甘美な刺激に追い立てられる。 「……っ」 優しいゆっくりとした動きで、竿を丁寧に扱かれる。 何度か同じリズムを繰り返していたかと思えば、徐々に緩急をつけられて、その度に牧は大きく頭を揺らした。 先走りが垂れて、鳴海の指がシロップをかけられたように濡れる。 時折、その湿った水音が、牧の耳を厭らしく犯していった。 「んっ…、あぁ……ッ」 カリのところを指で作った輪できゅっと攻められ、一際(ひときわ)甲高い声を上げてしまう。 鳴海の指先が亀頭との段差をしつこくクリクリとこねるように蠢き、牧はビクンと腰を震わせた。 「な…るみぃ……」 気持ちいい、と掠れた声で訴えると。 鳴海は「よかった」と深い息を吐きながら安堵の表情を見せ、少し肩の力が抜けたようだった。 「牧さん…。すごく、可愛いよ」 牧の膝頭に、唇を落とす。 それから触れるような愛撫を、そのまま太腿へと滑落するように降らせていく。 鳴海の頭が、牧の足の間に潜り込む。 その至近距離には、汁に塗(まみ)れて硬くなった、欲情したペニス。 程なくして、それは温かくて柔らかい感触に襲われる。 「…や……っ、なる――…！」 ねっとりとした舌が、棒アイスでも舐めるかのように茎を這う。 先端から滴(したた)る蜜を零さないように、下から上へと何度も移動して。 裏筋を舌先で撫でられると、微弱な電流が全身を走っていく。 たっぷり焦らすように時間をかけて舐め上げられた牧の性器は、自身の先走りと鳴海の唾液との区別もつかないほど、びしょびしょに濡れていて。 鳴海はそんなヌルヌルした棒の先を、ゆっくりと口に含めていった。 「あ…ッ、…んン…ッ」 柔らかい粘膜に包まれて。 牧は手の甲を口元に当てて、ひたすら込み上げる快感に耐える。 じゅぽじゅぽと卑猥な音が余計に、自分たちの淫靡(いんび)な行為を駆り立てていた。 鳴海が、ちらと視線を牧へ向ける。 ただただ与えられる甘い刺激に夢中になっている牧の姿を見て、満足そうに目を細めた。 「は、…ン、ふぅ…ッ」 ちろちろと先っぽを舐めたかと思えば、今度はグリグリと鈴口を舌先で押しつけられる。 穴を塞いでるみたいに見えるのに、それどころか透明の液は溢れ出る一方で。 再び口にペニスを深く咥え、鳴海はゆっくりとその頭を上下に動かしていく。 牧は熱で潤んだ瞳で、愛撫を続ける鳴海を見つめた。 そのレベルならばどんな女も簡単に抱けるだろうに、男である自分の彼氏になってくれただけでなく、こうして一生懸命ちんこまでしゃぶってくれている。 頭が動く度に鳴海のウェーブした髪がゆさゆさ揺れ動き、そんな仕草すらエロくて胸がキュンと高鳴った。 過去に幾度か異性に手コキやフェラチオをされた経験はあるのだが、ここまで敏感に感じたことは一度もなかった。 大体牧自身の気持ちがあまり盛り上がらなくて、これならオナニーでもいいやとさえ思ってしまっていた。 もしかして自分は不感症なのでは、と考えたこともあったくらいだ。 それなのに、今こんなに淫猥な感覚に溺れてしまっているのはなぜなのだろう。 いや、そんなの答えはもうわかっている。 ――相手が鳴海だからだ。 鳴海に、触られたい。 鳴海に、触りたい。 もっといっぱい、ちんこを舐められて、しゃぶられて、めちゃくちゃにしてほしい。 鳴海に、抱かれたい。 欲望の渦が体の奥へ侵略していくとともに、鳴海の口淫は激しさを増していった。 陰茎を吸い上げながら、右手で牧の根元を上下に強く握り上げていく。 「ああぁっ…！ なる、み…、それ、…イク、イッちゃ……！」 そろそろ出るから口離して、と訴えるも。 上目でそれを見た鳴海は「このままイッていいよ」と言わんばかりにストロークを速めていく。 「や…ぁ、ダメ…、…なるみ…待っ……、あぁ…っ」 牧がかぶりを振ると、オレンジ色に褪せた髪がばさばさと視界で乱れた。 ビリビリと痺れるような感覚が体の奥底から押し上げてきて、ついに牧も我慢の限界を迎える。 「あ…あああぁ……ッ！ な、鳴海ぃ…！」 アッシュブラウンの色をした頭を手でぐっと自身の股間へと強く押しつけて、牧は腰をガクガクと震わせた。 直後、精液が放たれ。 鳴海はそれを、口の中で受け止めた。 ――なに、これ。気持ち良すぎ…。 眦(まなじり)に、つうと涙が伝う。 初めての感覚と感情が入り混じり、体のほうが追いつかない。 「あ、ごめ…っ、鳴海…。俺、我慢できなくて……」 牧は大きく肩で息をしながら、それを嚥下(えんげ)する鳴海を見て申し訳なさそうに謝った。 鳴海はゴクンと飲み干した後、親指で口元をぐいと拭(ぬぐ)う。 「牧さんが気持ち良くなってくれたならいいよ」 気にしないで、と口元に優しげな笑みを浮かべる。 「それに、こっちのミルクも美味しかったしね」 言われ、テーブルの上にある牛乳が入っていたマグカップと自身の性器を見比べて、牧は頬をほんのり朱色に染める。 床に散らばっているグレーのボクサーパンツをサッと素早く履くと、そのまま正座で鳴海に向き合った。 「……じゃあ。今度は、俺の番だから」 「え？」 鳴海が、目を大きく見開く。 牧は胸をドキドキさせながら、ちょっぴり恥ずかしそうに目を逸らしてもう一度言った。 「次は俺が、鳴海のを口でするから……」 男のペニスなんて咥えたことないから、うまくできるか自信ないけど。 それでも鳴海が喜んでくれたら嬉しい。 そう思って、言ったのだけど――…。 「いや、牧さんはしなくて大丈夫なので」 「えっ…」 一瞬、何を言われたのかわからなかった。 恋人同士なのだから、当然お互いに愛撫し合うものだと思ってたからだ。 まさか断られると思っていなかったので、じわじわと焦りが押し寄せる。 「で…でも鳴海。俺だけ気持ち良くなるの、悪いし……」 本当は、自分も鳴海に触りたい。 自分の行為で、気持ち良くなっている鳴海の姿を見たい。 しかし、そんな言葉が出るよりも先に。 「俺は、平気だから…。ありがとう、牧さん」 やんわりと、拒絶されてしまった。 けど、鳴海がたまに見せる困ったような笑顔だったので。 やはりただ遠慮してるだけなのかと思い、負けじと食い下がる。 「遠慮、するなって…。そりゃ、俺は鳴海より下手かもしれないけど…やってみないと……」 そう言いながら鳴海の丈の長いシャツを捲ろうとすると。 「すみません。明日は仕事で、朝早いので……そろそろ帰りますね」 伸ばした手を静止させられて、そっと下に降ろされてしまう。 牧が呆然としていると、その間に鳴海は手早く身支度を整えてしまい。 「それじゃあ、今日はごちそうさまでした。おやすみなさい、牧さん」 バタン、と玄関のドアが閉まる音が、ワンルームの狭い部屋に響く。 玄関には、残された牧の靴が一足。 鳴海がいたという痕跡は、皿に残ったりんごタルトの欠片と、空っぽのマグカップだけ。 「なん、で……？」 一人部屋に立ち尽くす牧が、ぽつりと呟く。 もしかして、彼氏ができたというのは幻だったんだろうか。 『ワンダー・キングダム』の不思議な魔法が、夢の続きを見せていただけだったのかもしれない。 考えてみれば鳴海のようないい男が、わざわざ自分みたいな者を相手にすること自体おかしいのだ。 最初にデートをしたあの日から、いつか魔法が解ける日がやってくるんだとわかっていたはずなのに。 「やっぱり俺が男だから、萎えたのかな……」 牧は、自分のパンツの中を覗き込んだ。 どこからどう見ても、雄とわかるものが生えている。 「勝手に発情して、ちんこ押っ立てて。一人で盛り上がって……バカみたいじゃん、俺」 はは、と乾いた笑いが零れ落ちる。 ありのままの自分を好いてくれたのだと思ってた。 それは、男という性別も含めて……。 あれからそのままパンツを履いたので、牧の性器の表面にはまだ、鳴海の唾液の痕跡が少し残っていて。 触ると、ぬるりとした触感が手に伝った。 名残惜しくそれを指で擦っているうちに、次第に手の中の芯が熱と質量を取り戻していく。 「はっ…、あ…ぁ……鳴海…ぃ」 目を瞑り、マスターベーションをしながら鳴海の手の感触を思い出す。 鳴海の手、鳴海の口、鳴海の顔…。 「んん…っ、…く……ッ」 ただの想像なのに、夢中になって。 いつの間にか、自分の手に精を吐き出していた。 白く濁った液体でベタつく、手のひらを。 牧はしばらくの間、無言で見つめていた――…。