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ラブ、大盛で #9
牧の情欲をそそる格好を前にして、鳴海は口の中でじんわりと唾液が溢れ出るのを感じた。
それはまるで空腹だったところに、豪華なご馳走を出された時のようで。
ずっと飢えに飢えていた体は、本能のままに、吸い寄せられるように熟れた果実へと手を伸ばす。
「ま…き、…さん……」
「あ、…」
双丘を手のひらで撫でられると、牧はピクンと小さく腰を浮かせて反応する。
そのまま両手で尻たぶを揉みしだかれたかと思えば、真ん中の割れ目をぐっと開かれて。
露になった牧の秘部を、輪郭を確かめるように鳴海はそっと指でなぞる。
薄紅色の蕾はキュッと閉まっていて、思わず見惚れてしまうくらい綺麗な形をしていた。
鳴海は熱い吐息を漏らしながら、そこへキスを落とし、舌を這わす。
「あっ…! ちょ、ちょっと待って、鳴海……ッ!」
「待てません」
静止する牧の手を無視して、鳴海はじゅぷっと厭らしい音を立てながら唇で吸い。
更に容赦なく舌先で孔 をこじ開けていく。
湿った、温かいものが淫らに入り込んで来て。
牧は全身の力が抜けて、シーツの上へ上半身がぺたりと崩れ落ちた。
「んっ、あああ、あっ…。な、なる……っ、やめ……」
「今更、やめろと言われても、無理なんで」
「そ……じゃ、なく…て……!」
鳴海は仕方なく一旦体を離し、シーツに半分埋もれた牧の顔を覗くと、恥ずかしそうに縮こまったその恋人と目が合った。
「……お、俺…。帰って来てから、シャワー…浴びて、な…」
か細い声で、牧が言う。
しかし鳴海は、特に驚くわけでもなく。
「まぁ、運んだの俺なんで。それは知ってますけど…」
今更何を言っているんだろうとでも言いたげな、訝 しげな目を向けられる。
「だって……汚い、から。鳴海に、嫌な思いさせるかも…」
「言ったでしょ。牧さんは、汚くないよ。俺が舐めたいと思ったから、舐めてるだけで」
「でも……」
「俺だって、今日仕事終わってそのまま来たから、さっき牧さんに臭いって思われたかもだし。お互い様でしょ」
「な、鳴海は臭くないし、汚くなんかない」
そんなこと考える暇もなく、夢中になってしゃぶっていた。
むしろ、相手の雄のにおいに興奮した自分すらいたくらいで。
牧が必死に否定すると、鳴海は「それは俺も同じだよ」と、くすっと微笑 って。
「それじゃあ。終わったら、二人で一緒にお風呂入ろうか」
それならいい? と鳴海が優しい声で訊くので。
牧は思わずこくん、と頷いてしまった。
「どっちにしろ、牧さんのココ、解 さないといけないしね」
そう言って、鳴海が再び舐めようとするので。
牧は、はっとして、あることを思い出した。
「あっ! それなら、ベッドの下にあるやつ。使っていいから」
ベッドの下、と言われ。
鳴海はマットレスの上から手を伸ばしてその場所を探ると、出てきたのはドラッグストアの大きなビニール袋がひとつ。
中身を確かめてみれば、そこにはコンドームの箱と潤滑剤が、ごっそり山のように入っていて。
「何これ。 …………爆買い?」
鳴海が袋の中を覗き込んだまま動かないので、牧は引かれたのではと心配になって慌てて弁解する。
「えっと。それ、元々持ってたわけじゃなくて…。この間、鳴海が家に来るっていうから。準備、しとこうと思って、買っといたやつで……」
鳴海の美容室で髪を切ってもらった帰り、つい気持ちが昂って。
勢い余って、買い物カゴいっぱいに放り込んでしまったのだった。
何かを考える仕草をしていた鳴海が顔を上げ、振り返る。
「要するに牧さんは…。これ使うようなこと、俺としたかったってことでいいの?」
「……!」
図星を指されて、牧は一瞬言葉に詰まり。
「……っ、ああ、そうだよ! 結局使うことなかったから、鳴海は、俺としたくないのかと思ってたけどさ……!」
半分ヤケになって、答える。
あの時は期待していたのが自分だけかと思って、恥ずかしくて、悔しかった。
そのせいで、ずっと悩んで、落ち込んで。
今となっては、それはただの勘違いだったわけだけど。
羞恥で顔を赤らめる牧に、更に恥ずかしい質問が飛んでくる。
「こんなにたくさん買って、牧さんはどうするつもりだったの?」
「――…っ」
牧は口をまっすぐに結ぶと。
そのまま毛布にくるまって、丸くなってしまう。
「……そんなの。鳴海と、いっぱいするつもりだった……に、決まってるだろ…………」
毛布でくぐもった声が、微かに鳴海の耳に届く。
鳴海からの返事は、聞こえない。
牧は不安になって、毛布の端をぎゅっと強く握りしめていると。
「……したくないなんて、俺がいつ言いました?」
弱々しい、小さな声がして。
牧は毛布の隙間から、そっと顔を覗かせる。
鳴海は優しく笑っているのに、切なさで歪んでいるような、複雑な表情をしていた。
「俺も、ずっと。牧さんとしたかったよ」
鳴海の声は、少しだけ震えていて。
ずっと、っていつから? と一人疑問を抱きながら、牧は続く言葉を黙って待った。
「したかったけど。我慢、してた……」
そこまで言うと、鳴海は黙り込んでしまった。
そういえば、気持ち悪いって嫌われるのが怖かったみたいなことを、さっきも言っていた気がする。
自分も同じことで不安になっていたのを思い出し、どれだけ相思相愛なんだと、牧は胸のあたりがくすぐったくなる。
「……我慢、すんなよ」
「え…」
「もう。鳴海のしたいように、していいから」
「牧、さん――…」
お互いの、劣情に満ちた視線が絡み合う。
被っていた毛布を剥がされ。
体を隠すものが何もなくなって、牧の肌色がすべて外にさらけ出される。
鳴海も着ていた衣服を粗雑に脱ぎ捨て、先に牧が脱いだものに重なりながら、それらが床に散乱していく。
初めて見る鳴海の裸体は、服を着ていた時よりも逞しくて、綺麗で。
これからこの体に抱かれるかと思うと、牧は心臓がドクンと大きく暴れるのを感じた。
少しだけ恥ずかしくなって、部屋の電気を消してもらって。
代わりに、ベッドサイドの小さなライトをつける。
ランプの柔らかな橙色の光が、狭い空間をぼんやりと照らし。
やがて。
壁に映し出された二つの影は、ひとつに重なっていった――…。
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