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ラブ、つゆだくで #6
すっかり上機嫌になった牧は、楽しそうに商品を次々と選んでいく。
鳴海のクローゼットは黒や白、ブルー系の服が多いとのことで、これからは春らしく明るい色合いのものも取り入れていこうということになり。
ベージュやカーキの色をしたテーパードパンツに、薄手の山吹色のカーディガン。トップスもオフホワイトではなくキナリなどのカラーを中心に、春らしいものを何点かピックアップしていった。
「つっちーも勝手に試着してっていいって言ってたし。早速着てみよう、鳴海」
店の隅に設けられているフィッティングルームへ、牧が案内をする。
売り場と壁で隔離された空間には、部屋が全部で三つ並んでいて。
カーテンではなく扉で仕切られたそこは、しっかりとした個室のようだった。
一番奥の部屋が広いのだと奨められ中に入ってみると、確かに両手を大きく広げられるくらいの余裕はあった。
室内には大きな全身鏡と、丸いスツール。
その横には荷物を入れるカゴが置かれていたので、鞄と手に持っていた紙袋を早速入れさせてもらった。
牧は手にしていた洋服をハンガーごと壁のフックにかけると、白い木製ドアを閉め、内側から施錠をした。
「あれ? 牧さんも一緒に入るの…?」
てっきり一人で着替えをして、外で待つ牧に着たところをその都度見せるというお決まりの流れなのかと思っていたが。
密室に男二人、ぎゅっと詰め込められた形となる。
「だってこれ、俺も着ていいんだろ? 前から気になってたやつだから、ちょっと試しに着てみたかったんだよね」
そう言うと牧は靴を脱いでカーペットへと上がり、ヘンリーネックという途中までボタンがある七分袖シャツを手に取って嬉しそうに鏡の前で合わせていた。
確かに、三つしかない試着室を二つも使用するのは他の客の迷惑になるので、ある意味合理的なのかもしれないが。
「鳴海は、こっち着てみて。似合うと思うから」
そう言って、ピスタチオの色をしたオープンカラーの五分袖シャツと、ベージュのテーパードパンツを手渡される。
言われた通りに着替えて鏡を見てみると、普段コーディネートに取り入れないカラーのせいか新鮮で、それでいて着心地は良い。
シャツはオーバーサイズという種類らしく少しゆったりとした作りになっているが、不思議とだらしない印象にはならなかった。
「やっぱり、鳴海が着ると何でも様になるな」
「そうかな? 牧さんが選んでくれた服が良いからだよ」
「俺も、これ着てみようっと」
牧は気になっているというキナリの七分袖シャツに着替えるため、着ていた服を脱ぎ始めた。
しかしインナーの上から羽織るのかと思って見ていたら、いきなり上半身裸になったので鳴海は思わず目を瞠った。
「牧…さん…? 上、全部脱いじゃうの…?」
「え。だって俺、鳴海と違って今日着てるインナー長袖だし」
確かに鳴海のインナーは半袖だったので、袖がはみ出ることなく、そのまま上から羽織ることができたが。
聞けば、普通に重ね着してもいいけど、綿麻素材なので暑い季節に一枚だけで着ても着心地がいいかどうかも確認したかったとのことだった。
言いたいことは理解できるのだが、鳴海はどうしても気になってしまうことがあり、落ち着かない。
ちらりと、半裸の牧の体を盗み見る。
淡い桃の色をした乳首が、白い肌にほんのり色づいていて、妙に艶 めかしい。
家では何度も見慣れているはずなのに、いつもと違う場所というせいなのか、それとも健全なただの着替えというシチュエーションが逆にそそるのか。なぜだか異様に、ドキドキしてしまっている。
しかも、牧の鎖骨の下に昨日鳴海がつけたばかりのキスマークを発見すれば、否が応でも昨夜の情事を思い出してしまい…。
「お、これ意外とサラッとしてて着やすいかも」
そんな鳴海の胸中にはまったく気づかずに。
すっぽりとシャツを被って袖を通した牧が、鏡の前でくるりと回って、裾をひらひらさせながらシルエットをチェックする。
「どうよ、これ? 鳴海が持ってるジーンズや黒のパンツにも、絶対合うと思――…」
振り向いた牧の唇は、それ以上言葉を紡ぐことができなかった。
鳴海の唇に、塞がれ。
すぐにそれは、熱い口づけへと変わっていく。
「な、る…!? ……んン…っ」
貪るような激しいキスに攻められて、牧は呼吸をするので精一杯になる。
身を捩って逃げようとするその体を、鳴海は抱きしめるように腕の中に閉じ込めて身動きを取れなくする。
「んぅ…、ハァ…、あっ、んん……」
抵抗する素振りを見せる割りに、舌を絡めるとそれに応えてくれる。
体の力が抜けたのか。牧は、ふらふらと背中を後ろの鏡に預ける。
鳴海のシャツにぎゅっとしがみついて堪えている姿すらも、可愛いと思ってしまう。
しばらくして、唾液がつうと互いの唇を伝うように余韻を残しながら顔を離せば、牧はその潤んだ瞳を向け、顔を真っ赤にして抗議を始める。
「な、鳴海…っ。なんで、こんなところで、キスなんか…!」
声は荒げてはいるが、表情を見ると怒りというよりも驚きのほうが大きいように受け取れる。
「でも牧さん。さっき、二人きりになれたらキスしていいって」
「普通は家に着いたらって、意味だよ! お前、一応ここ、俺の職場だからな…! それにいきなりキスすんな、びっくりするだろうがっ」
嫌だからするなと言わないところが、牧らしい。
鳴海はそんな牧に、もっと触れたくて堪らなくなった。
「いきなりじゃなかったら、いい…?」
「……え?」
「予告しておけば、キスしてもいいってことだよね」
「ま、まぁ…。せめて、事前にわかってれば…心の準備というか……」
「じゃあ、今から牧さんにキスします。あと、体も触ります」
「は? 何言って……、んんっ」
予告通り、鳴海は牧にキスをする。
今度は唇だけでなく、体の方にも甘い刺激が襲う。
鳴海は、手を背中から下へと滑らせていき。
手のひらが尻の位置まで到達すると、服の上から撫で回し、それからゆっくりと揉みしだいていく。
「やっ…、ああっん。…な、鳴海……ッ」
「予告は、したので」
「許可は出してないだろ、許可は…!」
「じゃあ、これから許可ください」
しかし牧が答えるよりも先に、また口を塞がれてしまう。
「あ…、あああ…っ! ん、…ふう……っ」
ぐっ、と尻を押さえつけられれば。
当然、正直な反応を見せる牧の股間が、密着している鳴海の太腿の部分に当たり。
「……牧さん、勃ってる」
「バカ…。誰の、せいだと…」
「俺のせいだね。ごめん」
謝られ、ようやく諦めてくれたのかと、牧がほっとしたのも束の間。
「――だから責任持って、もっと気持ち良くしてあげるね」
「……え?」
鳴海の瞳は、濃い劣情の色に染まっていて。
先ほどまで尻を厭らしい手つきで触っていた大きな手が、今度は、牧のスボンのファスナーをそっと下ろしていった。
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