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ラブ、つゆだくで #8
「それじゃあ、牧さんから貰ったプレゼント。早速、使わせてもらうね…?」
鳴海は小さな銀色のチューブを手に取ると指先に白色のクリームをたっぷりと出し、それを牧の後ろの窄まりへと塗りつける。
せっかく貰ったプレゼントなので本当は少しずつ大事に使っていく予定でいたが、何もつけずに入れて牧を傷つけるわけにもいかないので、本人の了承のもと、潤滑剤の代わりに使用させてもらうことになった。
オーガニックの店で買ったというそのハンドクリームは香料など余分な成分が入っていないということで、普通のハンドクリームに比べて刺激は比較的少ないはずだと牧は言う。
指をずぷりと孔 の中へと挿入すると、クリームの油分も手伝って、思いの外 すんなりと入り込んでいく。
薄紅色をした蕾は、既にとろけるように柔らかく。
昨晩はもっと太いものを飲み込んでいたのもあって、指を一本、二本と増やしていってもあっさりとそれを受け入れた。
「鳴海…。もう、大丈夫…だから……」
入口をグリグリと入念に掻き回していると、牧の吐息混じりの声が微かに耳に届く。
牧は後ろ向きで鏡の前のスツールに手をついているため、自然と尻を鳴海の方へ突き出す体勢になっていて。
服も全部は脱がずにズボンと下着をただ下ろしただけなので、まだ膝下あたりで衣服が引っかかっており、そんな半端に乱れた格好も裸とはまた違った厭らしさがあってそそられる。
「早く、鳴海のちんこ……欲しい…」
牧が、顔だけこちらに向けて振り返る。
しなった背中から腰にかけてのラインは、とにかく綺麗で、官能的で。
……牧さん。どうしてあなたは、いつもそんなにエロいんですか。
頭の中でそんな風に文句を言いながら、鳴海は自身のペニスにクリームを性急に塗りつけると、牧を鏡に手をつかせるようにして立たせ、入れてと差し出された尻の割れ目を手でぐいと広げる。
「牧さん、……入れるよ?」
小さな孔に熱い芯の先端を押し当て、そのまま背後から貫いてやる。
クリームと、さっき兜合わせをしたときのお互いの先走りとが絡まって、思った以上にぬるんとしていて滑りが良い。
「…ん、……っ」
初めての生の感触に、鳴海は堪らず色っぽい唸り声を零す。
薄いゴム一枚ないだけで、こんなにも感度が違うものなのか。すぐに持っていかれそうになるのを必死で耐えて、牧をもっと悦ばすため、中の狭い道を更に突き進んでいく。
それから難なく奥まで到達し、鳴海がゆっくりと腰を前後に動かすと、牧は体を支えている手の指先にぐっと力を込めた。
「あ、ああ…っ。鳴海…、気持ちいい…ッ」
「俺も、気持ちいいよ、牧さん…」
いわゆる立ちバックの体勢で繋がっているが、鏡に牧の感じている顔が映っているので眺めは最高である。
牧が体を捻ってキスを強請 ってきたので、一度チュッと短いキスをした。
それから牧の腰を両手で掴んで、再びピストンを開始しようとした、その時。
向こうから、複数の足音と話し声が近づいてくるのに気がついた。
「……! 鳴海…」
どうしよう、と動揺して振り向く牧に向かって、鳴海は「しーっ」と立てた人差し指を自分の唇に当て、にっこり微笑んで見せる。
「大丈夫。このまま静かにしてれば、そのうちいなくなるから」
そう耳元で囁いて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
もちろん、牧とはまだ繋がったままだ。
せっかく生でセックスできたばかりだというのに、こんなことで邪魔されるなんてごめんだ。
しかし牧のほうはてっきり中断するものだと思ったらしく、まさかの行為の続行に明らかに当惑している様子のようだった。
「あ、ほら試着室あったよー」
「へぇ。カーテンじゃなくて、ドアになってるんだ。なんかオシャレだね」
「でしょー。じゃあ私、これちょっと着てくるから」
「はいはーい。私はここで待ってますよ」
声からして、女性二人組のようだ。
そのうちの一人が、入ってすぐ一番手前の部屋――、つまり牧たちのいる部屋の二つ隣に入る音がした。
そしてもう一人はというと、どうやらその扉の前の通路で連れを待つことにしたらしい。
間に一つ部屋が空いているとはいえ、距離は近い。
バレないか緊張しているのか。牧は瞼 を閉じて睫毛を小さく震わせながら、気配を消すようにそうっと息を潜めていた。
「どう? 入ったー?」
「失礼な。……ギリギリ入りませんでしたよ」
「やっぱりね。あんた、最近よく食べるから…」
「うるさいなぁ。このスカート可愛かったから、着てみたかったんだけどなー。残念」
「そういえば、今度の日曜デートなんだっけ。で…? 彼氏とどこまでいったのよ?」
「えー。そりゃあ、もちろん…」
試着は終わったはずなのに、なぜか女性客たちはくだらない雑談をその場で続ける。
こっちはずっと彼氏とのセックスの中断を余儀なくされているというのに、どうしてどうでもいい女性の性事情を延々と聞かされなければならないのか。
そうしている間も、牧の中は温かくて、気持ち良くて…。きゅっと閉まった牧の後ろは、ヒクヒクと痙攣するように鳴海のものを誘う。
――あぁ。早く、牧さんとえっちの続きがしたい…。
ついに、鳴海は我慢の限界となり。
少しだけなら、と。
僅かに、腰をずらしてみせる。
「……!?」
中で急に動き出したので、牧は驚きの表情を鏡越しに寄越す。
「おい鳴海…! お前、何勝手に動いてんだよ!」と口 パクで訴える牧に、「ごめん、もう我慢できない」と同じく口パクで返す。
一度動いてしまえば、もっと大きな快感を求めて止まらなくなり。
ゆっくり掻き回すように雄を擦りつければ、きゅうっと締めつけるように内側の粘膜が吸いついてきて、脳髄まで痺れるような感覚に襲われる。
そして、感じているのは鳴海だけではないようで。
「〜〜…っ!」
牧は自身の口を手で隠して声が外に漏れないようにしていて、鳴海はそんな姿を見て更に欲情してしまう。
人に気づかれないようにしなくてはいけないという理性と、もっと牧をめちゃくちゃにしてやりたい衝動とが複雑に入り混じる。
試着室でこっそり致すというAVのようなシチュエーションが背徳感を誘い、いけないことをしているというドキドキ感が興奮という感情に変換されていく。
「……、ぁ…ッ」
「……っ」
だんだんと、周りの雑音が聞こえなくなってきて。
牧に性器を包まれている甘美な感触と、目の前のしなやかで美しい肉体と、鏡の中で快感に歪ませる綺麗なその顔だけが、鳴海の脳内を支配する。
牧さん。
牧さんが、好き。好きです。
何度も、何度も。頭の中で唱える。
夢中になって、ついその腰の動きを激しくしてしまい――…。
ガタッ。
後ろから強く突かれ。
ビクンと大きく体を揺らした牧が、勢い余って足元にあったスツールに足をぶつけてしまう。
「えっ?」
「今の音、何…?」
物音を聞いた客の声が、壁の向こうから聞こえてくる。
「もしかして。そこに誰か、いるの…?」
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