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ラブ、おかわり #15

ベッドに腰を下ろし、背の高い鳴海の顔を見上げる。 「鳴海も、こっちおいでよ」 突っ立ったままでいる鳴海を、牧は自分の隣を手でぽんぽんと叩いて誘うが。 それでもなかなか来ようとしないので、不思議に思っていると。 「あの。牧さん…。抱きしめてもいいですか」 鳴海が遠慮がちに、おかしなことを言い出した。 「そんなこと確認しなくたって。好きに抱けばいだろ」 「でも。昔の話をしたからかもしれないけど…。あの牧さんと両想いになれたなんて、未だに夢みたいで。なんか緊張して……」 あの牧さんて、どの牧さんだよ。 今まで散々その牧さんに厭らしいことたくさんしてきたくせに。今更何言ってんだか。 「ったく。しょうがねぇな。……ほら」 ぐいと鳴海の腕を引っ張って、ベッドの上に二人仲良く倒れ込む。 「……夢じゃないから、安心しろ」 隣に転がる鳴海の体にすり寄って、ぎゅっと強く抱きしめてやると。 鳴海はそれに応えるかのように。まるで、壊れ物でも扱うみたいに優しく、そして丁寧に。そっと牧の背中に腕を回す。 ――なんか、こうやって抱き合うのも久しぶりだな……。 懐かしさと嬉しさが込み上げてきて。堪らず、鳴海の胸に押しつけるように顔を(うず)める。 「鳴海。カモミールの匂いがする…」 「そういえばお風呂、凄く良い香りがしたけど。入浴剤入れるなんて珍しいね」 「あー。うちの店長から貰ったバスソルト、入れてみたんだ」 「……牧さん。プレゼント貰うくらい、店長さんと仲いいんだ…?」 急に鳴海の声のトーンが落ちた気がして、牧は顔を上げる。 もしや、またつまらない嫉妬でもしてるんじゃなかろうか。 ……うん、この顔は確実にしてるな。 やきもち焼きの年下彼氏が可愛くて。牧は、くすっと微笑(わら)う。 「バカ。前に有島のことで落ち込んでた時に、気を遣って店長がくれたんだよ。鎮静効果があるから、リラックスできるんだと」 「確かに。この匂い嗅いでると、落ち着くね」 「ココは、落ち着いてないみたいだけどな?」 グリ、と股間を太腿で擦ってやると、すかさず隣から甘い吐息が漏れる。 「……仕方ないでしょ。一週間以上も、牧さんに触れてなかったんだから」 耳元で、色っぽい声で囁かれ。 それだけで、牧はとろけてしまいそうになる。 するりと鳴海の温かい手が服の下へと侵入してきたところで、牧が「あっ」と短い声を上げた。 「ちょっと待って。俺だけ風呂入ってなかったから、今から行っ――…」 「ダメ。待てない」 牧が慌ててベッドから体を起こして、立ち上がろうとするが。 すぐに鳴海に引き戻され、その腕の中にすっぽりと閉じ込められてしまう。 「鳴海、離せって。俺も、カモミールの香りを纏いたい」 「カモミールもいいけど。それよりも、俺は牧さんの匂いをいっぱい嗅ぎたいな……」 「俺の匂いって何だよ」 「牧さんの匂いは、牧さんの匂いです」 「ン…っ」 抱き合った体勢のまま、牧の首筋からうなじにかけてを、鳴海の唇が触れていく。 ちゅっちゅと啄むように吸われれば、ぞくりと体が震え。反射的に鳴海の服をぎゅうっと握りしめた。 「どう…? 俺の匂い、する…?」 「うん。凄く美味しそうな匂いがするよ」 仕事から帰ってきてそのままの格好だったので、汚いと幻滅されないか心配だったが。気にするどころか嬉しそうに牧の体に鼻を擦りつける鳴海を見て、ほっとする。 初めて体を繋げた日のように「後で一緒にお風呂入ろう」と言われ。牧はもう、ベッドから抜け出すのを完全に諦めた。 「――ていうか。あの時の美容師が、鳴海だったんだな」 ぼそりと呟くと。 鳴海がハッと顔を上げて、牧の眼を見つめる。 「……俺のこと、覚えててくれたんですか?」 「優しくてシャンプーが上手なイケメンが一人いたのだけ、何となく覚えてる。眼鏡なしだったから、顔まではっきり見えてなかったってのもあるけど。当時は鳴海の髪ストレートだったし、俺全然わかんなかったよ」 記憶の中にいるサラサラの髪をしていた若い美容師と、目の前にいるふわふわの髪をした鳴海の姿が。 ようやく、一つに重なる。 「気づかなくて、ごめんな」 眉尻を下げながら、牧が優しく笑いかけると。 鳴海は一瞬、ぐっと涙を堪えるように口を真一文字に結んで。 それから、柔らかな笑みを見せた。 「いいんです。今こうして、牧さんが俺の腕の中にいてくれれば……」 その双眸からは、『愛しています』という感情がダダ漏れで。 ――本当に、鳴海は俺のことが好きなんだな……。 愛されているという実感が間欠泉のように湧き出てきて、顔が熱くなる。 胸なんか熱いを通り越して、焦げそうだ。 しかし。 鳴海はずっと一途に思い続けてくれたというのに、自分は今の今まで思い出せなかったというのが、どうしても悔やまれる。 「あーあ。花粉の季節じゃなかったら、コンタクトで行ったんだけどなー。こんな格好いいイケメン、一度見たら絶対忘れねぇのに」 牧はそう言いながら鳴海の顔を両手で挟み、顔を近づけて覗き込む。 「俺の顔、牧さんの好み?」 「うん。好き」 「そっか。……なら、この顔に生まれてきて、本当に良かった」 鳴海が、牧の両手の間で赤面して言った。 恥ずかしいのか、必死で目線を逸らそうとしているのに、お互いの顔が近すぎるせいで逃げ場がなくて焦ってるところが、なんか可愛い。 「鳴海も、俺のこと一目惚れだったってマジ? あの時の俺、(よだれ)垂らして寝てただけのような気がするんだけど」 「綺麗だったよ。凄く。でも俺が牧さんに惹かれたのは、それだけじゃないから――…」 言われて、「ああ」と鳴海の話を思い出し。 牧は鳴海の髪に手を伸ばして、それをそっと撫でる。 「……俺さ。鳴海のこの髪、すげぇ好きだよ。似合うと言った俺の感性は、間違っていなかったんだな」 「牧さん……」 どちらかともなく、唇が合わさる。 もっと深いキスがしたくて顔の角度を傾けると、牧の眼鏡のフレームが鳴海の顔にぶつかった。 「眼鏡、外す?」 鳴海がそう尋ねるが、牧は首を横に振る。 「鳴海の顔覚えてなかったの、悔しいから。今日はその分、いっぱい鳴海のこと見てやるんだ」 「ん…、あっ…」 鳴海の指が、牧の中を淫らに掻き乱す。 久しぶりに味わうその感覚に、堪らず上擦った声が零れる。 「やっ……鳴海、ダメ…そこ、トントンしちゃ…っ」 「ダメじゃなくて、イイでしょ? 牧さん、ここ責められるの好きだったよね」 「す、好きぃ…っ。好きだけどぉ…。気持ち良すぎて、そこばっか弄られると、も…、イッちゃうから……っ」 お腹のあたりを内側から執拗に押され、牧は早くも快感に身悶える。 必死に懇願する牧があまりにも可愛いので。 鳴海はローションで湿った指を動かして、わざとグチグチと卑猥な音を立てた。 「……牧さんの中、今日は随分と狭いね。俺と会っていない間、一人でシたりしなかったの…?」 そろそろいいかな、と指を引き抜いて。鳴海がそんな質問を投げかける。 牧は仰向けのまま、眼鏡のレンズ越しに鳴海の顔を見つめて。 「んん…。一回だけ、自分でシてみたけど。イケなかった……」 ゴムを装着し終えた鳴海が、牧の言葉に振り返ると。 牧の手が、鳴海の勃起したペニスを捕らえる。 「コレじゃないと、俺…。もう満足できないみたいだ……」 そう言いながら。 自ら、後ろの窄まりへとその熱い芯を宛てがい。 「ううん……。あれ…? うまく、入んな……っ」 息を途切れさせながら、鳴海の先端を、ぬるぬるに濡れた(あな)へと何度も擦りつける。 早く欲しいのに、と一人()れていると。 「んぁ…っ!」 突如、太いものがズルンと入り込んでくる。 奥までググッと押し込まれたかと思いきや、すぐにそれはピストンの運動を開始して。 「牧さん……。俺…。今日、本当に余裕ないから。あんまり、煽んないで…」 熱っぽい鳴海の目が、牧を見下ろす。 興奮しているからなのか、ハァハァと獣のような吐息の音を漏らしている。 けれど。 普段に比べると、その腰の動きは幾分も緩やかで。 もしかして、久々だから。負担、かけないように我慢してるのかな。 確かに体は、辛くないけど……。 一瞬。ストレートヘアだった頃の、若い鳴海の姿が脳裏によぎる。 それから、その幻影はすぐにウェーブヘアの大人びた鳴海の姿へと形が変わっていく。 記憶の中にいる鳴海は、いつも優しく微笑んでいて。 最初に美容室で出会った時も。 『ワンダー・キングダム』で再会した時も。 初めてえっちな雰囲気になった時も。 今まで、ずっと。 言いたいことや、したいことがあっても、鳴海は自分の中に仕舞い込んでばかりで――…。 「…い…、よ……」 「え…? 牧さん、今、何て……」 「我慢、しなくて……いいよ…。鳴海の好きに抱いて、いいから」 牧は、鳴海の胸にそっと手のひらを当てる。 余裕なんか、なくたっていい。 気遣ってくれるのは、嬉しいけど。 自分のやりたいように、行動したっていいんだ。 それに。 鳴海にもっと、気持ち良くなってほしい。 「……今まで俺に会えなくてずっと溜め込んでた分も、俺にぶつけてよ」 「牧…さん……」 「もっと、俺のこと。鳴海の『好き』でいっぱいにして……?」 「――…っ」 次の瞬間。 鳴海は牧の足首を掴んで、ぐいと大きくその足を開かせた。 膝が頭の脇に来るほど体を折り曲げられ、必然的に牧の尻は高い位置へと上がって。 「あ…ああああ……ッ」 深い、奥のところまで、楔を打ち込まれる。 鳴海の体が覆い被さり、牧はその身を捩ることもできなくなって。 ただひたすら、受け身の体勢で強い刺激を与えられ続ける。 「ハァ…、ハァ…。ま…き、さん……っ」 「んっ、あっ、あん、ンン…!」 ぱちゅん、ぱちゅんっ。 腰を強く押しつけられれば、ぐしょぐしょに濡れた結合部の水音と、お互いの肉がぶつかる音とが混ざり合って、耳までをも犯す。 いつもと違った角度で挿入され。鳴海の滾った肉棒は、牧の敏感な粘膜の壁を擦りながら最奥を(えぐ)っていく。 「いっ、んぁ…っ。すご……、俺ん中、鳴海ので、いっぱいに、なっ…、あああ…っ」 「牧さん…っ。牧さんの中…、凄く気持ちいい……」 「俺も、すげ…、気持ち…い……からぁッ」 体を揺すられる度、すぐ上で鳴海の髪が乱れるのが見えて、何だかそれが酷く色っぽい。 牧を抱いているときの鳴海の瞳は、目が合っただけでとろけてしまうほどの熱を帯びていて。全身が、飢えた動物のように本能に支配されていた。 「眼鏡。かけたままにして、良かった…。鳴海の感じてる顔、見れて嬉し……」 「牧さ…んっ」 いつもの優しいキスとは違った、(かぶ)り付くような激しいキスで唇を塞がれる。 ねっとりとした舌をねじ込まれて、口の中も同時にぐちゃぐちゃに掻き乱される。 「ん…、ぁ…ふぅ……、っン」 体中が性感帯になってしまったみたいに、触れられた箇所全部からビリビリと電流のような感覚が駆け抜ける。 牧の手に、鳴海の手が重ねられて。 恋人繋ぎをするように、指を絡めていく。 ちゅくちゅくと、唾液を溢しながらキスをしているうちに、気持ちよくなって。 「あ…っ、鳴海ぃ…。俺、そろそろ…限界……」 「じゃあ。一緒に、出そっか…」 「え…、出すって。でも……」 手を両方とも繋がれてしまって、これでは自分のモノを扱けない。 どうしよう、と牧が戸惑っていると。 「はぅ…ッ!?」 ズン! 鳴海の雄が、牧の奥を強く突き上げた。 さっきよりも激しい動きで、一気に責め立てられ。 牧の体の内側で、何かが弾け飛びそうになる。 「えっ、ちょっ…、なる、待っ……!」 何、これ。 こんな感覚、知らない。 「ああ…牧さんっ、牧さん……!」 「えっ、あっ、ひゃっ、ぁ…っ! なっ、る…、鳴海…ぃ!」 「好き、好きだよ、好き、牧さん、好き……ッ」 「あ、ダメ…っ。もう…イク……っああっ、ああああッ」 牧は喉を仰け反らせて、ビクンと大きく体を震わせた。 牧の零した白濁の液体が、二人の汗ばんだ肌を汚していく。 きゅうっと鳴海を咥えこんだ場所が、強く締めつけ。 直後。中に入っている肉茎がドクドクと脈打ち、熱い精を放ったのを感じた。 呼吸を乱したまま、しばらくお互い黙って見つめ合い。 絡めた指に力を込めるように、ぎゅっと強く握りしめた。 ぽたりと、ひと粒の涙が牧の胸に零れ落ち。 牧は、鳴海の顔を見上げる。 「どうした、鳴海? また、俺とのセックスに感動でもしたか?」 ゴシゴシと手で擦るように涙を拭ってやると。 滲んだ鳴海の視界の中に、牧の優しい笑顔が映る。 「牧さん。俺のこと、好きになってくれてありがとう……」 ――今、すごく幸せです。 そんなことを鳴海が言うので。 牧は、鳴海ご自慢の髪を手でぐしゃぐしゃにして、こう返してやった。 「バーカ。……それは、俺のセリフだよ」

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