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第3話

 佐川が涼の部屋に足を踏み入るとそこは、ガラんとした空間だった。部屋の真ん中に小さなテーブルがポツンと置かれ、テレビはなく端にはきちんと畳まれた布団のみで、何もない部屋だった。 「あんな人でも、唯一の肉親なんです」  薬箱をテーブルに置くと涼は座った。佐川も涼の前に胡座をかいている。 「恥ずかしい話しなんですけど、兄の借金の保証人になってしまって……ずっとフラフラしてた人で、事業を立ち上げるのに資金がいるって言われて。やっとあのダメ兄貴が真っ当に生きてくれる、ってそう思ったんですけどね」  歯に噛んだ笑いを涼は浮かべた。 「それは、嘘だった?」 「みたいですね」  絆創膏を貼ると、佐川は絆創膏を撫でている。 「また、来るんじゃ……」 「でしょうね、あの様子じゃ。お金ないみたいだし」  お茶入れますね、そう言って涼は立ち上がった。 「借金ってどれくらい?」 「三百万です。闇金から借りたみたいで、利子を払うだけで精一杯」 「三百万も一体何に?」  テーブルに二つのマグカップ置くと、涼は首を傾げた。 「さあ……どうせ、借金を返す為に借金したんじゃないですかね」  カチッカチッと壁にかかった時計の無機質な音だけが部屋に響いた。 「こんな話し嫌になりますよね。あ、良かったら夕飯どうですか? お詫びに」 「そんな! こっちが出しゃばった真似したんです」 「冷蔵庫の物、処分したいんで協力して下さい」  そう言って涼は寂しそうな笑みを溢した。  佐川は上背もあったが、体格もガッチリしており見た目通り食欲も旺盛で、目の前の食事を次々と平らげていく。涼はしばしその食いっぷりに目を丸くした。佐川は子供のように、口の中に一杯にに頬張り、両頬がリスのように膨らんでいるのを見ると、思わず吹き出してしまった。 「ぷっ……!佐川さん、子供みたい……!」 「ほうでふか?」 頬張りながら佐川は口を開く。 「おいひいくて」 嬉しそうに佐川は満面の笑みを浮かべた。 (年上だろうけど、かわいい) そう思うと自然と笑みが溢れた。 「いやーお腹いっぱいです!ご馳走さまでした!」  涼がテーブルを片付けていると、不意に佐川の手が伸びてきた。 「白瀬さん」  佐川の手が涼の前髪に触れた。 「髪、切らないんですか? 白瀬さんは額出した方が素敵ですよ」  佐川のその言葉と表情に涼の心臓が大きく鳴った。 (なんて優しく笑う人なんだろう)  そんな事を思った途端、涼は気恥ずかしくなり顔を伏せた。 「美容室に行くお金もったいないので」 「俺、切りましょうか?」 「え?」 「結構得意なんですよ、こういうの」  そう言って、佐川は優しく笑った。

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