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第4話

 佐川が自室に帰った後も、何度も鏡で自分の姿を見た。そこにはまるで別人なような自分。  少し癖毛の涼の髪が真ん中から分けられ、前髪がないせいで額と目元が露わになっている。 『白瀬さんは元が美人なんですよ。俺はこの涼しげな目元と顎のシャープな感じが好きですね』  鏡越しの佐川の手が後ろから伸びたきたかと思うと、涼の顎をさらりと撫でた。  思い出すと涼の心臓は、ドクンッと大きく鳴った。  その日、触れられた佐川の手を思い出し自慰をした。この薄い壁の向こうに佐川がいると思うだけで興奮し、射精の瞬間、無意識に佐川の名前を呼んでいた。  それ以来、時折二人でご飯を食べるようになり、佐川の事を少しずつ知っていった。  三十前だと思っていた佐川は実は三十四歳だと知り驚いた。自分より十歳も上には思えない程、若々しく見えた。もらった名刺には印刷会社の営業と書かれており、ごく普通のサラリーマンのようだった。  佐川は友達が多いらしく、数人の男が佐川の部屋によく出入りするのを度々見かけた。  そして佐川はバツイチだった。子供がおりその養育費を払う為、少しでも養育費にお金を回せるようこんな安いアパートに越してきたのだと聞かさせた。まず、バツイチにも驚いたが、こんな穏やかで優しい人のどこが不満だったというのか、涼には疑問に思えた。 (俺だったら……)  不毛過ぎるその想いに涼は考える事をやめた。

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