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第5話

 兄の明がまた突然現れた。当然金の無心だった。仕方なく五千円を渡すと早々に帰るのかと思ったが、一晩泊めてほしいと言われた。  返事を聞く気配もなく、明はスーツケースを片手にズカズカと部屋に上がり込み、冷蔵庫を物色している。 「簡単な物で良ければつくるけど」 「おおー、頼む」  チャーハンを作るとテーブルに自分の分と明の分の皿を置いた。 「おっ、うめーな」  ガツガツと目の前のチャーハンを明は平らげいく。 「あ、そうだ。これ暫く預かってくんねえか?」  明は脇にあるスーツケース軽く叩いた。 「何それ?」 「まぁ、私物だよ」 「押し入れにもでも入れといて」 明は押し入れを開けながら、 「おまえ、風俗でもやれば?」 そう言った。 「はぁ? 何言ってんの?」 「髪切ったらいい男になったじゃねーか。おまえ、ガキの頃は可愛かったもんな」  押し入れに体半分を突っ込み、スーツケースを押し込んでいる明の背中を睨んだ。 「体売れば月百万くらいはあっという間だぜ? それ三ヶ月我慢すれば、借金チャラだ」  明は押し入れを閉め、振り返るとニヤリと笑った。 「体売るって……俺、男だよ⁈」 「そういう風俗もあんだよ」 「だったら兄さんがやれよ!」 「俺は無理だよ。おまえわりと綺麗な顔立ちしてるから、いけるって」 (三ヶ月で借金返済か……)  一瞬、そんな考えが過り、それを慌ててかき消した。 「それ以上、変な話しするなら出てって」 「冗談だよ」 「仕事はしてるの?」  タバコをふかしている明に尋ねると、 「もう少し経てば、デカい仕事が入ってくるからよ。それが上手くいけば三百万の借金なんてあっという間にチャラだ」  そう言ってニヤリと明は笑った。 「何それ? 危ない仕事?」 「大丈夫だって! 心配すんな!」  そんな兄の言葉など信じられるはずもなかった。  明は畳の上にゴロリと寝転がり、しばらくするとイビキをかいて寝始めた。  涼は一つ息を吐くと、押し入れから掛け布団を取り出し、明にかけてやった。  こんなどうしようもない人間だが、自分にとってはたった一人の肉親だ。強く突き放せばいいのにそれができない。  今はこんな風になってしまったが、幼い頃は良く遊んでくれたし、虐められて泣いていれば、虐めた相手に仕返しに行ってくれたりもしたのだ。本当は優しいところもある。根は腐ってはいないと思いたかった。  それから一か月程が過ぎ、佐川とは共に過ごす日々が増えた。食事だけではなく、時折街に出て映画を見たり買い物をしたりデート紛いな事をする事もあった。  そして毎回、涼の自慰行為のオカズはすっかり佐川に定着していた。そこまでくればさすがに自分の気持ちにも気付かないわけがない。 (俺、佐川さんが好きなんだ)  気持ちを告げようとは思わない。こうして一緒に過ごせるだけで幸せだった。

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