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第6話

その日、仕事から帰った涼は部屋の前で佐川と明が話しているの目撃した。驚いた事に佐川が財布から金を出し、それを明に渡していたのだ。  その事を佐川に問い詰めると、気まずそうに視線を逸らした。 「で、どういう事ですか?」  テーブルを挟んで佐川と向き合う。 「白瀬くんからお金を借りるのをやめてくれって言ったんだ。お金が必要な時は代わりに俺が貸すからって」 「いつから?」  発した声はわずかに震えていた。 「一ヶ月くらい前から、かな……」 「そんな前から⁈いくら貸したんですか?」 「ごめん、それは勘弁して」  佐川は苦笑いを浮かべている。 「なんでそんな事……! 佐川さんには関係ない!」  酷く惨めになり、涙がポロポロと溢れた。 「関係ないなんて言わないでくれ! 君が辛い思いをしているのが耐えられなかった! 君が好きだから!」  次の瞬間、佐川に抱きしめられていた。 「君の力になりたかったんだ」 「佐川さん……」 「好きなんだ、白瀬くんの事が!俺の事嫌いか……?」  佐川の表情は今にも泣きそうで、酷く幼く見えた。 「嫌いなわけ……ないです」 「じゃあ、好き?」 「……はい」  涼の返事と同時に、佐川に抱きしめられた。同時にキスをされ驚いていると、今度は何度も啄むキスが降ってきた。最後は深く口付けされ、その夜、涼は佐川に抱かれた。佐川は終始、涼を気遣い、体の至る所に優しく触れ、涼の人生の中で最も幸せな時間に思えた。 「もう、兄さんにお金を貸すのはやめて下さい……」  佐川の腕の中で微睡みながら言うと、 「分かったよ」  佐川は愛おしむ様に涼の髪に触れた。 「お金は俺が返します」 「気にしなくていい。それより少し眠るといい」  その言葉と同時に涼は眠りに落ちた。  その日を境に、佐川とは体を重ねる関係になった。好きな人に好きだと言ってもらえる幸せ、抱かれる幸せを噛み締めていた。  明から電話があり、来週の水曜日の夜中の二、三時間部屋を貸してほしいという。金の無心じゃないだけマシだと思い、その程度ならと、承諾した。どうせ、部屋を物色した所で金目のものなど一つもないのだ。  この兄さえいなければ、もっと穏やかに暮らせるのに、そう思うと無意識に溜息をついていた。  日曜日はいつものように佐川と過ごし体を重ねた。佐川によって何度も達した涼はいつの間にか眠っていた。  微かな物音で涼の意識が一瞬浮上し、無意識に隣にいるであろう佐川に触れようとした。だが、佐川の体はそこにはなかった。 (佐川さん、どこ……? )  目を開けたくても開いてくれない。カタカタと立て付けの悪い押し入れを開けるような音が聞こえた気がした。それが夢なのか現実なのか、今の涼には区別がつかない。 (そんな押し入れなんて開けても……)  そこで涼の意識は途切れた。

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