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第7話

 水曜日になり、明に言われた通りポストに鍵を入れバイトに行ったが、雇用契約書に押す印鑑を持ってくるはずが、すっかり忘れていた。店長に断りを入れ休憩時間に一旦アパートに戻る事にした。時計は夜中の十二時を回っている。明が知り合いと会っているはずだが、ほんの少し部屋に上げてもらうだけなら許されるだろう。  玄関の前に立ち、チャイムを鳴らそうとした瞬間、不意に口を何者かの手で塞がれたと思うと体が浮いた。 「⁈」  そのまま引きずられるように、アパートから離れた場所に移動させられた。  そして目の前の光景に目を疑った。  自分の部屋に次から次へと何人もの男たちが銃を片手に押し入っている。中から罵声が聞こえ、明らしき声も聞こえた。 (何? )  頭が上手く回らない。  そして口を覆う、その手の感触には身に覚えがある。 「佐川さん……?」  その手の主の名前を呼んだ。  ダラリとその手が外れ、涼はゆっくり振り返った。そこにはやはり佐川がいた。だがいつもの佐川とは雰囲気がまるで違って見えた。いつも自分に向けられる優しい笑顔はそこにはなく、眉間にシワを寄せた気難しい顔の男がいた。 「なんで戻ってきた」 「……忘れ物を取りに」  その言葉に佐川は右手で顔を覆い、大きく息を吐いた。 「どういう事?」  もう一度自分の部屋に目を向けると、明が男に両脇を抱えられ白いバンに乗せられている所だった。 「単刀直入に言う。君の兄貴は逮捕された」  その言葉を聞いても、真実味が全くない。 「白瀬明は麻薬(シャブ)(チャカ)の運び屋だった。今夜大きな取引きが君の部屋である事が分かり、張っていた。押し入れのあのスーツケースには麻薬(シャブ)が入っていた。予定では君が仕事に行っている間に全て終わらせるはずだった」  涼が戻った事により、その予定が狂ったのだと。 「佐川さんは刑事?」 「刑事とは少し違う。まぁ、似たようなモンだ」  淡々と話す佐川の口調に違和感を覚える。涼の知っている佐川は、こんな冷たい口調で話す男ではない。まるで別人と話しているようだった。

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