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第8話
「捜査の為に俺に近付いたの?俺が弟だから?」
「ああ……」
「もしかて、名前も偽名?」
「本名は大和桔平」
「それで佐川ね……」
そのネーミングセンスに思わず苦笑いが洩れた。
「全部嘘だった?」
涼の問いかけに大和は口をつぐんだ。ギュッと唇を噛み、大和の言葉を待った。
「……すまない」
それは、全てが嘘だったと認める謝罪の言葉だった。
「さが……大和さんは、捜査の為なら男も抱くんだ?」
「……捜査で必要となれば」
「好きって言ってくれた事も?」
「……それは」
言い淀んだ所で、
「いい! やっぱり聞きたくない。それが嘘でも悲しいし、本当だとしても、あなたを信じる事はできないから」
目の前にいる人物は自分が好きだった佐川ではない、別人なのだ。そう思わなければ、心が壊れそうだった。
「俺……嘘だけは、本当無理……」
母親に捨てられた事、明に裏切られた事、そして佐川は全て偽りであった事。なぜ自分はこうも大切な人に裏切られるのか。
「どう思われても仕方ないと思ってる。でも、君と過ごした時間は仕事を忘れるくらい幸せだったんだ。それだけは信じてほしい」
大和はそう言って涼の肩を強く掴んだ。
「大和さん!」
捜査官の一人が近付いて来ると、大和に耳打ちをした。
「すまないが、これから君に少し話しを聞かせてもう事になる。捜査に協力してほしい」
大和の手が離れると、涼は別の捜査官に車に乗せられた。背中に大和の視線を感じた気がしたが、振り返る事はしなかった。
その後の事はよく覚えていない。質問された事に対して淡々と答えたように思う。
兄が逮捕された事より、佐川との幸せな日々が全て嘘だった事に酷く傷付いていて、自分は随分と薄情な弟だと思った。
明は懲役八年を言い渡され、刑務所に服役した。涼は罪に問われる事はなかった。おそらく、大和が手を回ししてくれたのだと予想がついた。
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