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プロローグ5

「あの……」  まだ発情期を迎えていない未完成なΩとは伝えていない。 「それはうちの凛人が遊び人かなにかと言われているんですか?」 「そうではありません。Ωを娶る上での危惧です」 「危惧……そりゃあ、うちは一般の中流階級で、突然変異のΩですが、凛人はまじめに生活し、私たちも厳しく躾ました。そんな危惧は必要ありません」  父はそう言うと、「お互いを知ってから婚姻してもいいでしょう。『運命の番』というのなら、相手から逃げることもできないですから」と婚姻届けを相手側に押しやった。  ひとり息子を『嫁』に出すのだ。父も戸惑っているのだろう。  Ωと判明してからいつかはこういう日が来るかもしれないという危惧はあっただろうし、発情期が来ないことに安堵してもいただろう。  出会わなければ、このまま女の子と結婚して普通の、βのように暮らすこともできただろう。 「……穂高、急ぐ必要は無いだろう」  慎也が口を開いた。低くよく通る声にグラグラと身体が揺すぶられる気がした。 じっと僕の顔を見つめていた。視線が合うと、どうにも落ち着かない。すぐに視線をそらせる。 「ですが、発情期ともなればどこで襲われるかもわかりませんよ。何かあってからでは……」 「そんなことは分かっている。俺も知らない相手だ。お互い戸惑っているんだ。少し時間をかけてもいいだろう」  慎也は、「慌てることもない」と付け加えた。 「慎也様がそう言われるのでしたら、婚姻については保留といたします」  慎也は『それでいいか?』と問うように視線を上げた。

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