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プロローグ6
「こちらのわがままばかり申し上げて申し訳ありません」
母は深々と頭を下げて、「凛人をよろしくお願いします」と言った。
父はじっと慎也を見つめていたが、「運命とやらに逆らえないのであれば致し方ないことだ。少々手のかかる子だが、よろしく頼む」と小さく頭を下げた。
二人は書類を確認するように言い置いて帰って行った。
「凛人」
玄関まで見送った後に父親に呼ばれた。母はキッチンにそそくさと向かって行ったので父の部屋に連れて行かれた。
「いい人そうで良かったな」
父は仕事用のデスクの椅子を回転して僕の方へ振り返った。
「……うん」
まだどんな人かは分からない。
だけど、戸惑う僕に時間をくれた。αでありながらΩの意志を尊重してくれたことに嬉しく思った。
「Ωとしては最高の幸せかもしれないが、複雑だな」
父はこぶしを膝の上で握りしめている。
「父さん……」
「断ってもいいんだぞ」
断る……。
迎えに来ると言われてそれを拒否することは考えなかった。出会ってしまったことに戸惑いはしても拒絶は思いつきもしなかった。
「断れそうになさそうだよ」
この3日で名前も住所も調べて契約書や婚姻届まで用意してくるほどの周到さを持った相手を拒絶できそうにない。
「そうだな。まぁ、時間は貰ったからお互いを知ってからでも遅くは無いだろう。それに断られる可能性もあるしな」
「うん」
相手は僕が未完のΩってことまでは調べていないようだ。
「そのままならβとして生きていける。いつ来るか分からない発情期に怯えるよりも番になった方がいいのかもしれない。父さんや母さんではお前の苦しみを理解してやることはできない。お前が娘なら諸手を上げて賛成することもできるが……」
「うん。ごめんね」
Ωに産まれて来てごめん。
未完のΩなんてβと変わらないはずなのに、ごめん。
未完なままでいられる保証なんてない。小さな希望を持たしてしまうだけだ。
「謝ることはない。凛人は父さんや母さんにとって大事な子どもであることは変わらないよ。もし、番になってもいつでも帰ってきたらいい」
父さんは僕の頭を撫でると部屋から出るように促した。
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