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そういうふうにできている8
返事が無い。
あの秘書はお待ちですと言っていたのに。
もう一度押すと、『ガチャン』と鍵が開く音がした。
これは入って来いということだろう。
緊張しながらその重たいドアを開いた。
ライトグレーとダークブラウンで統一され、ダウンライトのおしゃれな広い玄関。
「お邪魔します」と声をかけてから靴を脱いで端へ寄せた。
玄関から続く廊下の突き当たりのドアを開けた。
広い。リビングとキッチンがワンフロアになっていて、ドアから向かい側の大きな窓の外にはまた広いベランダが続いている。その窓辺に置かれた革張りのソファーに慎也は座っていた。
「お世話になります」
僕が声をかけると慎也は立ち上がって、「ああ」と返事をして近づいてきた。
渡すように預かってきた紙袋を、「母からです」と慌てて差し出した。
視線を下に向けて、紙袋の中身を一瞥すると、「甘いモノは食べないから、穂高に渡せ」と言った。「分かりました」と頷くと、不意に顎を掴まれて上を向かされた。
食い入るように見つめる視線にたじろいで身を引こうとするが、強く顎を掴まれて離れない。その手を離させようと、手首を掴んだ。
「で? 経験は?」
聞かれたことが分からないほど初ではない。
慎也は眼を細めて値踏みをするように見つめる。
「男とはありません」
「そうか、じゃあ、仕方ないな」
ぱっと手を離されて、掴まれていた顎をさすった。
仕方がないとはなんだろう。
「お前の部屋はそこだ。発情期が来たら教えろ」
そう言って、今まで座っていたソファーに座り直すとそれまで読んでいた新聞を開いた。
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