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そういうふうにできている21
「凛人から声をかければいいだろ? メールとかさ」
「メールアドレス知らない」
「携帯番号は?」
「それも知らない。僕が知っているのは秘書の穂高さんの携帯番号だけだから、電話しにくくて」
それに忙しいところに電話をかけるのは気が引ける。メールなら後で読むことはできるけど、電話だとそうはいかない。ましてや相手は社会人。仕事の邪魔になったらいけないから、僕からかけたことはこれまで一度もない。
「書置きしてみるってのは? 『いつ帰ってきますか?』とか『ごはん一緒に食べませんか?』とか。メモ程度なら返事が来るんじゃないか?」
一緒に住んでいて連絡先を知らないのもおかしなことだ。最初で聞いていないと何となく言いだし辛い。それがずるずると続いているのだ。
「そうしてみるよ」
メモなら忙しくて顔を合わせていなくても読むことはできる。
おかえりくらい伝えてもいいだろう。
一緒に生活しているのに、会話も無いのはつまらない。
「実家は?」
「家? 一度電話したけど母さんに『ホームシックになったらいけないから』って電話切られたよ」
尊に、「まぁ、凛人ならありえそうだもんな」と言われて、「なんでだよ」と聞き返した。
「だって、凛人、今まで一人きりってなかっただろう? 帰ったらおばさんいて、学校も友達いてさ。今、徳重さん宅に1人だから寂しいんじゃない?」
一人暮らしもしたことはないし、専業主婦の母は帰ったら家にいる。部屋に一人でいることはあっても、家の中に一人きりはこれまで経験がない。
「そんなことは無いよ。レポートだってあるし、実技の設計も書かないと……」
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