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そういうふうにできている26

 恐怖で萎えたそれは反応を示すどころか、吐き気がしてきた。 「どうした? 気持ちいいだろう?」  男の声はするが、感覚が鈍い。  触られている男の動きは分かるのに、電車の壁の冷たさや密着している隣の乗客の体温は感じない。  後ろから押し付けられた男のモノが尻の間をグイグイと擦ってくるのに合わせて、前も握られる。 「……や、め」  やっと出た声に、「何だ、まだ足りないのか?」と男が囁く。  身体はまるで金縛りにでもあったかのように動かない。  なんで、動かないんだ。  こんなの嫌なのに。  ぎゅっと目を閉じて、動こうと必死になるが、何かに縛り付けられたかのように、身体は動かない。  その時、すぐ横の扉が開いた。男も電車が止まったことに気がつかなかったのか、一瞬動きが止まった。その隙に電車から倒れ込むように飛び降りたが、動かない身体は前のめりに倒れそうになった。さっきの男に腕を掴まれて引き寄せられた。 「離せっ」  慌てて出した声はなぜか音にならず口ぱくで終わってしまう。男はニヤついた顔のまま僕を引き寄せて肩を抱くようにしてホームの階段へ向かっていく。  男の後ろで乗っていた電車が扉を閉めて発車した。その音に僕の声はかき消されてしまう。降りる人は少なくて、ホームにはまばらにしか人はいないし、関わりたくないのか誰も助けてくれない。 「大人しくしてろ」  ギュンっと耳の奥が熱くなった。  身体は強張って、背中に張り付くようにして男に連れて行かれる。動かせない足は男に引きずられている。

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