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そういうふうにできている27

 おかしいとは思っても、自由にならない。  力が極端に抜けて、手に持っていたカバンがホームのアスファルトの上に落ちた。  何だこれ。  抵抗しようにも動くことはできなくて、男に引きずられて、まるで酔っ払いを介抱されているように見える。  どうして身体が動かなくなったのか分からない。パニックになるのに、どうしてだか身体はいうことをきかず男に連れて行かれる。  声さえも出すことができない。 「もう少しだよ。すぐに楽にしてあげるからね」  さっきとは違う声音に気持ち悪さが募る。  助けを呼びたいのに、どうすることもできない。  階段で下りることを諦めた男にエレベータに乗せられて、ドアが閉まる。  これが閉まったら終わりだ。  このままこの男に連れて行かれて……。  想像するだけで悪寒が走る。 「ちょっと待って。カバン落としましたよ」  エレベータのドアが閉まる直前に手を差し入れられて、再びドアが開いた。  聞き覚えのある声だけど、ぐったりとして男に支えられている僕は顔を上げることもできない。 「その子、僕の知り合いなんだけど。返してもらえるかな?」  エレベータに乗り込んできたのは気配で分かった。 誰だっけ。この声。最近どこかで聞いた声だ。 「何だお前。これは俺の物だ」  男に抱えられたままエレベータの奥に引き寄せられる。 「言っとくけど、この子はもう主人がいるからね。手を出したらあんた程度なら社会から抹消されてしまうよ」 「適当なことを言うな。この子だって同意で付いてきて……グフッ」

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