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そういうふうにできている29
「あ、穂高? 慎也はまだ仕事?」
電話の向こうの声は聞こえない。まだ身体が思うように動かない僕は智晴に支えられたまま泣きながらぐったりしていた。
「凛人君が緊急事態なんだけど。すぐに来て。仕事なんて後に回しなよ。凛人君は僕が預かってるから。そうだよ。大至急。場所は……」
電話を切った智春が、「すぐに来てくれるって」と言って笑った。
「酔っ払いが支えられてカバン落としたんだと思ったんだよ。本当に偶然。僕は今から仕事に行くところだったから」
「す、すい、ません」
謝りながらしゃくりあげる。動けないから智春が涙を拭き取ってくれた。
「発情はしてないみたいだけど、パニックになったのかな、身体動かせないみたいだね」
コクコクと何度も頷いた。
「この間話した服従フェロモンだよ。慎也のは効かないみたいだけど、さっきの男のは効いたのか……。相性があるのかな。『運命の番』だからかな」
智春は考え込むような口調だ。
慎也のフェロモンは効かないのに、どうしてさっきの男のは効いたのか、僕にはそれが理解できない。
それにこんな感覚に陥ったのは初めてなのだ。
「あ、甘い、匂いがする、言われて」
まるで僕が誘ったような口ぶりだった。撫で回された身体が気持ち悪い。耳をかすめた息がまだそこで息づいているようでブルッと身体が震える。
「匂いなんてしないよ」
「でもっ……ひ、し、慎也さんも、甘い匂いって……言った」
慎也も甘い匂いがすると言っていた。発情期が楽しみだとも。
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