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そういうふうにできている35
回された腕が身体を支えている。スーツを掴んだ手にはまだ力が入っている。
駐車場の薄暗い照明が慎也の濡れた唇を光らせていやらしく見える。
後頭部に回されていた手が目元に触れて、「帰るぞ」と言ってのけ反った僕を起こすと腕を引いて歩き出した。
さっきまでとは違う、ふわふわした感覚に戸惑いながら、慎也に引きずられて地下にある駐車場から最上階の部屋へとエレベータで移動した。
リビングのソファーに座らせられて、戸惑って慎也を見上げると、「下等なαになんて触らせるな」と眉間に皺を寄せた。
「……触らせてなんてない」
勝手に触ってきたのは相手の方だ。僕から身を寄せたりしたわけじゃない。それに満員電車だったのだから。
慎也はスーツのポケットから携帯を取り出した。指先で画面を弄ると耳にあてた。
「……どうなった?」
相手の声は聞こえない。慎也は僕の座ったソファーの横に眉間に皺を寄せたまま立っている。
「ああ。処分はお前に任せる。二度と姿を見せるな。ああ、解除した。ああ……」
電話の相手は穂高か智晴だろう。
電話をしている慎也の声にぞわぞわっとした感覚は起きない。大きなソファーにぐったりと身体を預ける。
今日は疲れた。このまま眠ってしまいたいけど、慎也がそれを許してはくれないだろう。
僕は何一つ悪いことをしてないのに、怒られるのかなと慎也を見上げる。
「……分かった。ああ、分かった」
分かったと何度も繰り返してから慎也は電話を切った。
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