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そういうことなのだから5

 2人は仕事に出かけてしまった。  昨夜はそのまま寝てしまったので、シャワーを浴びて着替えてから、慎也の部屋に向かった。慎也の部屋は寝室と中で繋がっていて、そこの扉には鍵がかけられていた。  広い室内には平行定規付きの製図用デスクが2台も置かれていて、そのどちらにも書きかけの製図が置かれたままになっている。壁面収納の天井まで続く本棚は、大学の図書館以上に建築関係の書籍が詰め込まれていて、床にも積み上げられていた。  製図台に付けられたライトは点けっぱなしになっていた。チラリと見た図面は、下書きと書かれてはいたが、完成していると言っても過言ではないほどに、緻密で正確に書かれていた。それに、綺麗なのだ。  建物のデザインそのものよりも、製図の段階でこの建物が美しいのが分かった。  製図は好きだ。自分の頭の中にある物が着々と形になっていく。建物の美しさだけじゃない。その建物の耐震性なども計算されて、計算された上で住居や商業施設が創造される。それを想像してワクワクしながら設計するのはとても楽しい。  慎也の設計はその想像が安易で、その上に美しさを持っている。 「すごいなぁ」  感嘆のため息をこぼして、資料があるという本棚に近づいた。詰め込まれた本棚の中から数冊を選びだした。  自室にそれらを持ち込んで、パソコンを開くと締切りの近いレポートに取り組んだ。慎也の持っていた本には付箋がいくつも貼られていて、赤線も多数引かれていた。慎也の勉強熱心な一面が見て取れた。慎也も大学生の時に使った参考資料なのかもしれないと心強く思った。  午前中にはいつものハウスキーパーがやってきて、共同スペース等の掃除をして、昼食を作り置いていってくれた。中年の小奇麗な女性で、一度話しかけたことはあるが、「仕事中ですので」とやんわりと断られてからは、話しかけることをやめた。

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