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そういうことなのだから8
身体だけが反応して、置いてきぼりの心は戸惑うばかりなのだ。
まだ知り合って間もないし、男同士だ。嫁と言われて、閉じ込めるようなことを言われて、身体ばかりが反応してしまって。
「僕の身体なのに、僕の自由にならない」
すり寄ってしまう身体は、僕の意思ではないと伝える。匂いだって、僕の意思じゃない。
どうして反応するのか分からない。
「委ねてしまえ」
慎也は耳元で囁くように告げる。
本棚の本が背中に当たっている。これ以上は逃げることはできない。
僕は、僕は……。
「……もう少し、待ってっ」
どんとその胸を押した。
はぁはぁと息が切れて、自分の胸を押さえた。押された慎也は少し離れて、「強情だな」と呟いて、僕を睨み付けた。それを睨み返すようにじっと慎也を見つめた。
『コンコン』
「慎也様、そろそろよろしいですか?」
明けたままになっている扉がノックされて、穂高が声をかけた。
慎也は、「面白くないな」と言いながら踵を返すと部屋から出て行った。
自分の動悸と息切れ、慎也の威圧に解放されて胸を押さえたまま床に膝を抱えてしゃがみ込んだ。
僕くらいのΩなんて、αでも最上級の慎也からすれば取るに足らないものだろう。そんな僕が運命の番だから、余計にいら立っているのかもしれない。
今朝、穂高さんは心配しているなんて言ってくれたけど、慎也からはそんな気配すら感じない。今だって、睨み付けられて面白くないと言われる始末だ。
慎也には、番を解消したら最下層に落とすと言われて、脅されている。
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