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そういうことなのだから9
番解消には一度は番にならなくてはならない……。
僕と慎也が番う……。
いくら運命の番で、強い絆があっても……信頼関係もない、肉体関係だけだなんてとても受け入れ難い。
慎也は簡単に委ねてしまえと言うけど、受け入れる側の僕は、いくらΩの烙印を押されていても、『男』として育ってきて委ねる勇気も、決心もまだ……できていないのだから。どうか、そのフェロモンで僕を揺さぶらないでほしい。
「……凛人さん、凛人さん。大丈夫ですか?」
部屋の入口から穂高に呼びかけられて顔を上げた。しゃがみ込んだままだから心配したのだろう。
「今後の予定について話をしたいのですが、日を改めましょうか?」
「今後の予定?」
今後の予定とは何だろうか。
慎也が実家に返してくれるということだろうか。
のろのろと立ち上がると、「ええ。親族へのあいさつや結納の日取りなどをそろそろ考えて頂かなければ……」と穂高は続けた。
「えっと……ちょっと待ってもらってもいいですか?」
慎也との結婚の話だとは分かったが、どうにも決心がつかない僕を置き去りにして話が進んでいるようで、慎也の意図がつかめない。
最下層のΩに落とすと言ったり、実家に返すと言ったりする慎也は僕との結婚を本当に了承しているのかが分からない。
慎也からは一度だって、情愛を感じたことが無いのだから。
リビングのソファーに座っている慎也を見たが、慎也は先に渡されたのだろう書類を見ていて振り返ることもないから、その表情は見えなかった。
リビングに出てくると、「こちらに」と座っている慎也の横を指された。
戸惑いながら、少し間を開けて座った。
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