開幕した舞台ではドレスで着飾った歌手が歌っているが、何を歌っているのか全く理解できないし、会場がワッと盛り上がっても、ドキッとするだけで気分も乗らない。 　慎也は黙ったまま劇を観ている。 　この劇が観たかったのだろうか。 　観たかったのなら、よく分かる誰かを連れてくればよかったのに。 　落ち着かない気分で緊張してソファーに座っているのは疲れる。 　オーケストラの演奏や歌、光の演出等で凝ってはいるが、これまで一度もオペラに興味を持ったことのない僕。幕と幕との休憩に穂高がやってきて、「もう少しリラックスしていいです」と言って、クッションを貸してくれた。長い演目のために劇場が貸し出しているようだ。 　それに座り直して、貰ったジュースに口を付けて一息つくと、「何だ、面白くなさそうだな」と慎也が意地悪そうに言った。 「……面白く無くは無いですが……興味はあまりないので」 「日本語で話せよ」 　休憩の時間が終わって座席のライトが落ちて、次の幕が始まるというのに、慎也は立ち上がった。 「出るぞ」 　そう言って座席の後ろの扉を開けた。 　慌ててその後ろを追いかける。 　観劇中に中座するのは失礼だと僕でも知っている。引き留めようにも声を出すわけにはいかず、従って慎也の後に続いた。 　扉の外には穂高が立っていて、僕と同じように驚いてはいたが、「食事に行く」という慎也に従った。僕は早足に追いかけた。 　劇場の入口には車が横付けされていて、劇場の係員がさっと後部座席のドアを開いた。 　後ろを追いかけていたのに、先に乗るように促されて、乗り込むとすぐに慎也も乗り込んだ。 　並んで後部座席に座っているのに、会話は無い。 　出る時のような機嫌の良さは全くない。