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それがそうなら3

 食事に行くと言っていたから、どこかへ食べに行くのだろうと予想はできたが、慎也がどうして今日は僕を連れ回すのかは分からなかった。  次に連れてこられたのは、有名なシェフが経営するレストランだ。入り口に車を止めて降ろされた。 「いらっしゃいませ。徳重様」  店の入口はすぐに開かれて、黒い蝶ネクタイをした店員が頭を下げて、席へと案内した。  店内はゴールドで統一されていて、中央には大きなグランドピアノがあり、ドレスを着た女性が演奏していた。  緊張してギクシャクした動きになってしまい、椅子を引かれて会釈をしてしまい、座る時に押された椅子に驚いて立ち上がりそうになって、慌てた。  慎也はそれが可笑しかったのか、表情を緩めて、「落ち着きのない奴だな」と呟いた。 「だ、だって、こんなところ初めてなんだ」  恥ずかしさに赤くなりながら、小声で慎也に訴える。 「そうなのか。徐々に慣れればいい」  慎也はそう言うと、横に立っているコンシェルジュに、メニューも見ずに「適当に」と言ってテーブに置いてあったメニュー表を返した。  慎也はこういうところで食事をするのに慣れているのだろう。慌てる様子も緊張した様子もない、手慣れた様子に感嘆するばかりだ。  持ってこられたワインは細いストローグラスに注がれて、ゴールドの光を反射した。  店の中には他の客もいるが、席同士は大分離されていて会話は聞こえない。ピアノの音だけが耳に響いた。  慎也は黙ったままワインを口に運んでいる。  前菜からゆっくりと持って来られるコース料理。持ってくるたびに、料理名を言われるがフランス語なのだろう、理解できなかった。

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