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それがそうなら4

 慎也との会話も弾むことは無くて、重たい空気ばかりが漂う。  料理の最後に出されたエスプレッソを口に運ぼうとした時、テーブルに年配の男がやってきて、フランス語でしゃべり出した。  慎也は笑顔で返事をして、握手をした。男はすぐにテーブルを離れて行ったが、会話の内容は全く分からない。  笑顔で話をすることもあるんだな。僕には機嫌が悪いか嫌味な笑顔しか見せないのに。  もう少し愛想良くしてくれてもいいのに。 「慎也さん、フランス語もできるんですね」 「ああ。日常会話程度ならな」  数か国語の日常会話的な会話はできると慎也は教えてくれた。さっき来た男性はここのオーナーだそうだ。  エスプレッソを飲み干すと慎也は、「行きたいところはあるか?」と聞いてきた。  この後ということだろうか。  馴れない観劇や緊張しての食事にすっかり疲れてしまった僕は、「もう帰りたい」と呟いた。 「お前はいつもつまらなさそうにしているな」  慎也は小さくため息をついて片手を軽く上げた。すぐに穂高がやってきて、「こいつを任せる」と言って席を立った。  これが、今から仕事に行くということじゃないことぐらい僕にも分かる。 「つまらないですよ。興味も無いところに連れて行かれて楽しめって方が無理な話です」  背中を向けた慎也に向かって強い口調で告げる。 「凛人さん。落ち着いてください」  穂高に窘められたが出してしまった言葉は取り消すことはできない。注目されていることは分かるが、じっと見られていはいない。 「じゃあ、どんなところがいいんだ?」  慎也は振り返って聞き返した。  どこがいいなんて代案は考えてなくて、言葉に詰まった。 「場所を改めましょう」

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