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それがそうなら12

 慎也が興味を引かれたのはカラフルな綿あめだった。大きな綿あめはテレビで紹介されて大人気だ。何人もの女の子が手に持っている。 「わたあめだよ」  慎也は感心したように頷く。 「あの建物は面白いな」  慎也は勝手に歩きだしてしまう。 「ち、ちょっと」  慌てて追いかける。慎也は興味を引かれた物の方へと進んで行ってしまうので、「待って」と追いかける。 「慎也さんっ、待ってよ」  追いかけた僕は慎也の手を取った。  掴んだ手を握り返して、「そこに入ろう」と地下へと続く階段を降りていく。 雑貨店らしいそこへ慎也は降りながら、「いいものがある予感がする」と言う。  いいものってなんだろう。  でも、楽しそうな慎也を見たのは初めてで、入ったこともない店に緊張することも無かった。  ステンドガラスがあしらわれた木製の入り口のドアを開けて中に入ると、色の洪水のようなカラフルな雑貨に溢れていた。気をつけないと物を落として壊してしまいそうだ。  慎也が、「これはどうだ?」と手に取ったのは、鮮やかなグリーンのカップ。慎也がコーヒーを飲むカップと同じデザインだ。 「アメリカンアンティークの……」  慎也が説明してくれたが、僕には分からなくて、いくつか持っているらしい慎也が、「お前のマグカップにすればいい」と言って買ってくれた。  ずっしりと重いガラスのマグカップ。普段使いのマグカップにしては少々高いが、慎也は上機嫌で同じデザインの白いマグカップも購入した。  何気におそろいだ。  小さな紙袋に入れたそれを手に下げて店を出る。  『お前用の』と慎也が言ったのを思い出す。

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