67 / 127

それがそうなら13

 そっか、いつまでもお客さんじゃないって、慎也は言いたかったのかと気がついて、「慎也さん、ありがとう」と改めて礼を言った。 「次は何を買うんだ?」  慎也に促されて、「慎也さんが勝手に行ったんですよ。僕はこっちの店に買い物に行きたいんです」と角を曲がる。  慎也が、「置いて行かれたら、帰れなくなりそうだ」と僕の手を掴む。  人通りの多いところで男同士で手を繋ぐなんて恥ずかしくて、「離してください」と手を離した。 「別におかしくは無い」  慎也がぐっと手を掴んで、僕の前を歩き出す。  ふふっと慎也が声を上げて笑った。 「凛。本屋はそこか?」  曲がった先に見える大型書店。頷いて慎也と共に中に入った。  専門書も揃っているが、雑誌のコーナーへと進む。慎也は手を離して大人しく僕の後ろを付いてきた。目的の雑誌を手にとって、パラパラと捲って脇に挟みもう一冊手に取った。「向こうを見てくる」と慎也は気を使ったのか、僕から離れていった。  数冊を手にとってレジに向かう。店内を見渡して慎也を探すが、すぐに分かった。  慎也は店の裏口にあるテラス席に座って、雑誌をめくりながらコーヒーを飲んでいた。  雑貨コーナーも併設されたそこは他にも数人の客が座っていたが、慎也ほど人目を引く客はいなかった。テラスに差し込む明かりが慎也の艶のある黒髪を照らして、雑誌を見るのにうつむいた顔と捲るために添えられた指先。  ああ、本当にキレイな人だな。  この人が僕の運命の番なのか。  僕の後ろから若い女性の声がした。 「見てみて」  友達と一緒なのだろう、慎也には聞こえないほどの声で、騒いでいる。 「絶対αだよね」 「すっごーい」

ともだちにシェアしよう!