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それがそうなら14

 興奮気味にキャァキャ騒いでいる。  買い物は済んだけど、慎也に声をかけるのがためらわれる。  こんなにも人を引きつけるαに最下層のΩの僕が声をかけるのが、ためらわれるのだ。  見た目だけで、αと分かる慎也。  穂高さんが、そんなところにと慌てた意味がようやくわかった。  そうだ。慎也をこんなところに連れてくるなんて、なんて失礼な事をしたのだろう。  楽しそうなんて思ったけど、慎也からすれば別次元の世間が物珍しかっただけだろう。βの世界が珍しかっただけかもしれない。  静かに本を捲っている慎也をじっと見つめる。  離れていたところから見ている僕に慎也は気が付かない。  出会わなければ、この距離ほども見知らぬ関係だっただろう。さっきの女の子達と同じようにまるでアイドルでも見るかのように。運命の番でなければこれほどまでに薄い関係なのだ。  すれ違っても気にも留めないほどの。  通り抜けられるテラスの反対側から若い女性がやってくる。一直線に迷いもなく慎也の元にやってきた女性は、慎也に声をかけると向かいの席に座った。  雑誌から顔を上げた慎也だが、機嫌悪そうに手で払う。まるで虫を払うように。  それでも話しかける女性に慎也は顔を上げて睨みつける。女性はパッと顔を赤らめると椅子から立ち上がって僕の方へと走ってきて、そのまますれ違って店の出口へと消えていった。  女性を視線で追っていた慎也が、僕に気がついて手招きする。  僕は吸い寄せられるように慎也の側に寄る。 「お前が遅いから、おかしなやつに声をかけられた」  機嫌の悪い慎也に、「誘われたんじゃないの?」と答える。

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